第101回「食の成分データベースを使う」

 食について話題になる機会が増えている。原因のひとつに「五訂日本食品標準成分表」が書籍(例えばhttp://www.eiyo.ab.psiweb.com/TAN01.HTM)となり、春先から店頭に並び始めたことがある。500万部以上を売った隠れたベストセラー四訂版に比べて、食品数と成分項目がかなり増え、それも話題になる性質の項目が多い。しかし、それほど高い本ではないものの、栄養士でもない身には持っていても使いこなせないかもしれない。それならとインターネットとパソコンで、素人なりに触って使えるサイトとフリーソフトを探そうと試みた。

◆五訂版成分表で何が変わったのか

 「概要」から拾うと「四訂日本食品標準成分表の19項目を拡充し、次の36項目とした」点が大きい。「E」「K」などビタミン類がぐっと拡充されたし、「脂肪酸」つまり油脂類が最近の健康ブームに合わせてその中身まで知れるようになった。これは次の節で詳しく扱う。

 季節や旬による成分の差として代表に挙げられているのがホウレンソウで、冬採りだと夏採りよりも3倍もビタミンCが多い。成分表では平均値を使い、欄外にこの差を付記する。こうした差があることは第17回「種子・修飾された遺伝子世界」でも触れた。

 南の海から北上する初夏の「初ガツオ」と、秋に北の海から南下する「戻りガツオ」とでは脂質の量が10倍以上違うと記載された。これは食感とよく合う話で、「初ガツオ」は藁の火で表面を焼いて「たたき」だが、脂ののった「戻りガツオ」は刺身に限る。私は高知と和歌山で数年、過ごしたことがあり、初夏も秋のカツオもいずれもよく食べた。同じカツオと呼んでも違う魚に等しいと思ってきた。

 サバの国産品と輸入品の差、タイの天然物と養殖物の差も大きくて、食べた感じでは別物である。かけ離れた観があったのを、成分表に両方とも収録して明示するようになった。

 ちょっと実際の数字を見たいと思ったら、便利なフリーソフトがあった。マイクロソフト・エクセルで動く「学校給食栄養計算ソフト N-Calc」(山中清さん作)だ。食品数は595品目と3分の1程度で、成分項目も完全なデータではないものの、五訂版の中身が盛り込んである。「栄養士が実務で使用する場合を除いてフリーソフト」ということなので、安心して使える。ある期間に実施した給食の栄養成分を合計してグラフ化して見るなどの機能がある。割合、大きなファイルだが、ネット常時接続の方なら苦になるまい。

 カツオのデータをこのファイルから一部拾うと、以下のようになる。もちろん100グラム当たりである。  脂質と同様にビタミンA(VA/RE)でもかなりの差があり、また、カロリーも違ってくる訳だ。

◆食品の油が心や体に及ぼす影響

 五訂版成分表には、油類の中身まで知られようになったとしたが、それは飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の3種までである。

 公衆衛生審議会答申による「第6次改定日本人の栄養所要量について」には「飽和脂肪酸(S),一価不飽和脂肪酸(M),多価不飽和脂肪酸(P)の望ましい摂取割合はおおむね3:4:3を目安とする」とあり、これを実現するために成分表が整備された。

 「脂肪はバランスよく摂りましょう!」あたりで概観していただければよいが、飽和脂肪酸は動物の脂、一価不飽和脂肪酸はオリーブオイル、多価不飽和脂肪酸はサフラワー油が代表的。一価不飽和脂肪酸は善玉コレステロールを高める作用が注目されている。多価不飽和脂肪酸のうちリノール油もコレステロールを下げると言われていたが、その効果は一時的なもので、逆に悪影響が心配され始めた。

 この連載の第50回「読者に応えて臓器移植法・心と食」の第3節で詳しく紹介したように、リノール酸の摂りすぎはガンや動脈硬化、アレルギー発症につながると考えられるようになった。行動に攻撃性が増すとの知見さえある。逆に多価不飽和脂肪酸のうちでもαリノレン酸系には、これを抑制する作用がみられ、リノール酸系とαリノレン酸系の摂取比により人間や動物の記憶や行動にも変化が報告されている。魚に多く含まれ、頭が良くなると俗に言われるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)はαリノレン酸系である。

 αリノレン酸系を特異的に多く含むシソ油があり、その「しそ油の研究報告」には、ガン、心臓血管、老化、アレルギー、学習などにわたる研究文献が挙げられている。

 食生活の欧米化に伴い、家庭でも揚げ物が増え、スナック菓子とかファーストフード類を中心にリノール酸が多い植物油が無意識のうちに大量に摂取されている。

 そこで「第6次改定日本人の栄養所要量について」は「n−6系多価不飽和脂肪酸とn−3系多価不飽和脂肪酸の比は、健康人では4:1程度を目安とする」とした。つまり、リノール酸系とαリノレン酸系とを「4:1」にしなさいというのだ。しかし、日本脂質栄養学会は「2:1」程度にと、国の示した割合よりもさらにαリノレン酸系を多く摂るべきだと促している。

 同学会ウェブにある「ω3およびω6系必須脂肪酸の必須性と推奨摂取量に関するワークショップ」は少々、専門的だが、1999年に米国で開かれた国際ワークショップで、参加者によって認められた適正摂取量が示されている。  言われるように意識してαリノレン酸系の油を多く摂れる食品を食べようとしても、栄養成分表にも書かれていないデータをどうしたら入手できるか。調べてみると科学技術振興調整費研究による「食品成分データベース」=注:4/14と4/15はシステムメンテナンスで使用停止=が試験的ながら稼働を始めている。

 ここに行って「食品成分検索」を選び、成分に「脂肪酸|18:3 N-3=リノレン酸」を指定、100グラム中に「200」ミリグラム以上と設定すれば、高αリノレン酸食品の一覧表がたちまち手に入る。ただし、リノール酸との比較で多くなければ意味がないので、条件を増やして、リノール酸も、またDHA(ドコサヘキサエン酸)もすべて「50」ミリグラム以上としよう。こうすると、αリノレン酸系が相対的にたくさん摂れる食品が見つけやすい。ほとんどが水産物であることがわかる。逆に「生・半生洋菓子/ケーキドーナツ」ではリノール酸が「3483.62」ミリグラムと、αリノレン酸系の10倍以上もあると知れる。

 もちろん無料のデータベースなので、自分の嗜好や食生活を考えながら、脂肪酸の摂取バランス改善に役立つデータを得て欲しい。

 また、こんなに詳しい成分は分からないが、「栄養成分ナビゲーター」がグリコから提供されている。カルシウム、鉄、ビタミン類、コレステロールまで知ることができる。これも五訂版対応になっている。