ドイツ総選挙と比べながら考えた [ブログ時評34]

 日本の総選挙に続いて投開票されたドイツ総選挙は野党のキリスト教民主・社会同盟が予想外に伸びず得票率35.2%で225議席を獲得、与党社会民主党の34.3%、222議席に3議席差を付けただけの接戦になった。選挙前に想定していた「キ同盟+自由民主党」「社民党+90年連合・緑の党」いずれの連立の組み合わせでも政権が出来ず、候補者死亡で10月2日に残したドレスデン選挙区の成り行きを見ながら、二大政党大連立を含め駆け引きが続いている。

 日本と同様に「改革」がテーマでありながら、日本の自民党の大勝利とドイツのキ同盟の勝利とも言えない「辛勝」は、いずれも世界を驚かせた。「民意を歪めてまで安定政権をつくるのか」(Cityscape Blog)がまとめているように、日本では自民党が得票率38.18%で296議席なのに、民主党が31.02%あって113議席しか獲得できなかった。「ドイツの選挙制度は小選挙区比例代表併用制で、日本の小選挙区比例代表並立制と名前が似ているが、全く違う制度」「小選挙区中心の日本の並立制とは違い、比例代表中心の制度といえる」。つまり、制度の違いで自民圧勝になった。

 ブログ上では、では日本がドイツだったら結果はどう違ってくるのか、シミュレーションをしているサイトが散見される。違う国の制度を当てはめるのだから、前提の置き方によって色々と変わるので、私なりの計算をしてみようと思い立った。大阪市立大の「概説:現在ドイツの政治 野田昌吾(法学研究科)第八講 ドイツの選挙と政党」を参考にした。

 ドイツでも日本のように有権者一人で2票を入れる。「第1票は小選挙区の候補者に、第2票は各州単位でつくられた政党の候補者名簿に対して」である。連邦議会の定数は598で、その半分が小選挙区から、残り半分が政党候補者名簿から選出される。日本と違うのは、各政党の獲得議席の大枠は第2票による比例代表選挙で決まってしまい、16ある州別に議席は算出される。日本の「ドント方式」ではなく「ヘア・ニーマイアー方式」で、これは議席数を計算して整数部分で足りない分を補充するのに、小数点以下が大きい党から順に繰り入れる仕組み。ただし、小選挙区の当選者を最初に「当選」と認定する約束なので、州別に比例配分した議席数よりも多くの小選挙区当選者を持つ党が出てくる。「超過議席」と呼ばれ、この当選も有効になるから、選挙が終わってみると議会定数以上の当選者が出ることになる。

 また、小党乱立を防ぐ趣旨で、比例選挙では5%以上の得票率がある政党か、小選挙区で3つ以上の議席を獲得しないと比例配分は受けられない。今回、日本の総選挙では自民党を追われた郵政法案反対派は国民新党と新党日本、それに無所属に分かれて戦ったが、ドイツ式の選挙を戦うなら「反郵政党」とでも呼ぶべき党を立ち上げていたはずだ。国民新党と新党日本の得票率は十分でないが、「小選挙区で3つ以上勝つ」条件はクリアーしているので、この新党を仮想したい。実際は田中真紀子氏のような異質部分も含むが国民新党と新党日本、無所属を一つにして計算する。鈴木宗男氏の「大地」は5%以上の得票率にも、小選挙区の当選にも該当しないから除外する。

 こうして日本の総選挙結果を小選挙区と比例区の数はそのままに計算する。比例代表の計算では「自民184、民主148、公明65、共産37、社民27、反郵政19」の合計480になる。しかし、自民党が北海道をのぞく10州で、反郵政党が九州で比例配分数より勝ちすぎていて、以下の通り超過議席を得る。  結果として自民党が単独過半数を占めることなど出来ず、過半数263に対して自公連立が287で成立するだけだ。「勝ちすぎ自民党」をドイツに持っていけばこの程度の勝利でしかない。逆に得票率13.25%で31議席しかない公明、7.25%で9議席の共産、5.49%で7議席の社民党がかなり大きな存在に変わる。ドイツでは連立交渉で苦労しているのがよく理解できる。

 自民単独過半数を見て「連立解消だ」と喜んだ人がブログでかなり見られたが、選挙の現場を見ている私たちから観察すれば、自公とも、もはや単独で選挙を戦えなくなるほど自公複合体は完全になった。ばらばらになれば直ちに民主に敗れるだろう。ドイツではどうだろう。緑の党が5%の壁を破るために連立を組む社民党支持者が応援することがあったし、逆に社民党に超過議席を一つでも多く取らせて連立を安泰にするために緑の党側が小選挙区を応援することもあったという。このあたり何か似ている。

 今回ドイツ総選挙では5番目の党「左派党」が全国政党として登場した。東ドイツの旧共産党系に社民党の一部が合流した。緑の党を超える得票率8.7%54議席の第4党として社民党の左に出た。二大政党が改革を競う状況に不安を覚える層を吸収したと見られ、従来型の連立工作を難しくした。日本の実情を考えると、この動きも無縁ではない。「ほっとけない 世界有数のこの格差社会を」(tamyレポート)は平均的な所得の半分以下しかない貧困層がどれだけいるかを示す貧困率がOECD加盟27国中、日本が15.3%と5位で、欧州諸国より突出していると指摘する。「1億総中流」など昔のこと、米国型格差社会に急接近しているのだ。小泉政権に委ねられた改革の中身がどうなるのか、吟味を怠らないようにしなければならない。