株狂騒の裏に潜んでいた経済中枢の欠陥 [ブログ時評42]

 東京証券取引所1部の時価総額が15年ぶりに500兆円を突破、株価も5年ぶりに1万6千円に迫る水準となった12月、11月にあった長時間システムダウンに続く欠陥が東証システムにあることが、みずほ証券の大量誤注文で露呈した。ネット経由で個人投資家が大量参入した株式相場は狂騒模様を呈し、ニューヨーク、ロンドンと並ぶ世界三大証券取引所のはずが、システム的には国際水準にはない恐れが強まっている。みずほ証券はもちろん、東証の運営能力、システム構築をした富士通の技術力いずれにも疑問符が付いた。

 みずほ証券が新規上場株ジェイコムを「1円で61万株」売り注文した行動もさることながら、東証の行動は株式市場の管理者として怠慢ではないか。「ジェイコム 東証問題 続き」(小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記)は強く疑問を投げる。「間違いなく市場を混乱に陥れる発注ミスは、発注側の責任だから、しかりつけ、対応は任せる。自社で提供している社会インフラのシステムの中身は、富士通にやらせているから、自分では当然分からない。富士通に調べさせる。市場を混乱に陥れてしまった事後処理の解決策にはタッチしない」「東証は自己の提供しているインフラ、サービスの中身を理解していないばかりでなく、問題が起きているかどうかの判断も出来ないし、自分で調べる気もなく」「サービスに対する責任感が全くない。東証の存在意義は何なのか」

 外国人から見ても不可解な運営だった。「ジェイコム株誤発注−東証の対応」(保守思想 Conservatism)は言う。「取引所は常に個々の取引についての監視を行っている。インサイダー取引や市場操作を行っている事実を何時も探している。だから、今回誤発注が行われた直後、問題の把握は取引所として認識していたはずだ。発行数」「以上の空売りが行われたのなら、すぐ問題取引だとわかるはずだ」「海外の取引所なら、1時間以内にこの株の取引は中止され、この株に関するすべての取引が無効と発表されただろう。後日、また再上場をスケジュールしただろう。なぜ、東証がそのような行動にでなかったのだろう?取引は一日続いた…」「取引所の運営できちんと問題が発生した時に対応してもらわなければ資本主義の要である株式取引の効果が半減してしまう」

 みずほ証券の損失は400億円に上ったが、東証システムの欠陥で注文取り消しが出来なかったことが判明、東証も損害を負担しなければならなくなる。さらにシステムを作った富士通にも責任が言われ始めている。報道されている仕組みは、値幅制限を超えるような安値注文が来たときは値幅制限ぎりぎりのストップ安にする「みなし処理」が発動され、新規上場株に限っては注文の取り消しを受け付けなくなる。こうした希なケースまで想定してシステムのバグ潰しが行われているかが問題だ。

 「またも東証のトラブル、改めて考えねばならない『要件定義は誰の仕事か?』」(東葛人的視点)は「要件定義書やシステム仕様書に記述がなければ、富士通が今回のようなエラーを処理するコードを書かなくても、法律上のロジックでは富士通には全く責任はない。たとえ富士通のSEがシステム仕様書を作成したとしても、ユーザーである東証が正式な手順でOKを出しているなら、東証が“提示”したシステム仕様書通りに、富士通がシステムを作っている限り、富士通には賠償責任は発生しない」と指摘する。つまり、仕様を決める東証に決定権がある。問題発生からの東証の行動を観察すれば、ここまで考えていない可能性が高いのではないか。

 しかし、新たに11月の長時間ストップについて問題点が指摘されており、富士通は東証は共に巨大テクノロジーを扱うセンスを疑われる事態になっている。事後検証をした「東証ダウン、運用体制の不備が根本原因」(IT Pro)は緊急時の対応手順も決めずに、いきなり本番機でプログラムを修整した点を取り上げて批判する。「バグを発見した際、富士通が開発機で本来の手続きを踏み、テスト作業を経た後、TCSが決められた手順で移行ライブラリに登録していれば、エイリアス設定手順の漏れに気づき、障害を未然に防げた可能性が高い。しかし、富士通が本番機で作業してしまったため、気づく機会を失ったのである」。この本番機での修整は東証が認めていた。

 単にコンピューターシステムの問題に止まらず、人的な問題も含めて、この国の経済運営の中枢に欠陥があったと言わざるを得ない。「みずほ証券誤発注問題を考える」(Aim High News Review)の主張は正しいと考える。「必要な手順を愚直に踏むことが、システム構築の王道であることは間違いありません」「当たり前のことを当たり前にやっていいものを作るのがプロの仕事というものです。こうした考えが欠落してしまったために、構造計算書の偽装問題は発生したのであり、その意味では両者の問題は同根のものであるとすらいえるでしょう。必要な工数は決して省略してはならず、請け負う業者はそのために必要なコストを請求する『勇気』を持たねばなりません」。愚直に仕事をする責任は、システムを発注し、運営する東証側も同じであることを強調したい。