日本野球のDNAが堅守キューバ崩した [ブログ時評51]

 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝の日本VSキューバ戦は、野球の面白さ、勝負の綾、何とも言えぬ物語性を満喫させてくれた。トリノ五輪で荒川静香選手が金メダルを取った時とは違う、組織立った団体スポーツならでは味わいだ。一、二の名選手がいて達成できるものではないだけに、大リーガーが多数参加した大会で初代王者に輝いた意味は大きい。

 松坂も、イチローも、松中も、福留も、大塚も良かったのだが、私は9回表1死1塁、西岡のプッシュバントに痺れた。8回裏に6−5まで詰め寄られ、流れはキューバに大きく傾いた。9回、三塁手の送球エラーで生きた先頭バッターを二塁に送ろうとするが、三塁手が名誉挽回と突っ込んで猛烈送球で二封。勢いが削がれた時に出た奇策だった。プッシュバントで球は測ったように一塁手、二塁手、投手の真ん中に転がった。その瞬間、異国の球場に甲子園の風が吹いたと感じた。高卒からプロ入りした21歳、西岡には突飛なアイデアではなかったのではないか。日本野球のDNAがキューバ内野陣の堅守をこじ開けた。後はイチロー、福留のタイムリー打が続くばかり。この手のプッシュバントは全盛期の箕島高校が駆使して有名だ。

 米国人審判の誤審が続いて嫌な思いもした。一時は王監督が「99%ダメ」と思うところまで行った。少なくとも米国戦は勝っていたはずであり、失点率の細かい計算などしなくて楽々、準決勝進出のはずだった。運営側のラソーダさんが自分のブログ「Brutal」(Tommy Lasorda's World)で、この審判は長年にわたり噂話のタネになるだろうとした上で「大会を通してプロらしい、品位ある身の処し方をしている日本チームに敬意を表する」と書いてくれたのを見て、ちょっと救いを感じた。

 「平々凡々」(すちゃらか日記)が「この前の荒川選手にしても、WBCの日本チームにしても。一度、駄目だって挫けてから、立ち上がる姿が素晴らしいね。ああ、私もそういう強さが欲しいなぁ。しみじみ。スポーツって励まされるなぁ、本当に」と書く。その気持ちは広い範囲の人のものだろう。

 イチローが開幕前に「向こう30年は日本に勝てないと思わせる勝ち方をしたい」と発言し、韓国側は「妄言」と猛反発、日本に勝つたびに嘲笑する論調の記事が流され、イチローには球場で大ブーイングが集まった。終わってみれば「日本戦敗因分析…『守りの野球』の崩壊」(朝鮮日報・日本語版)が「投手陣は韓国野球の柱だった。6試合のチーム防御率1.33、1ゲーム当たり平均2点も許さない鉄壁の守りを見せた」けれども「打線は平均以下だった。この日の試合前まで、参加各国のなかでチーム打率10位(0.262)、平均得点も4.33でしかなく、平凡なレベルだった」と総括するように、投手陣が崩壊すれば勝負にならないチームだった。日本の高校チームは韓国の100倍もあり、この底辺から差が出ない方がおかしい。イチロー発言はこうした事情を前提にしたものだろうし、自らとチームを鼓舞したのだろう。

 「心はやっぱり日本人−イチロー 」は「『冷静なイチロー選手』像はアメリカでやっているから自然に出来てしまった人間像なんじゃないかな」「今、イチロー選手は、日本人として、日の丸を背負って、同じ日本人の仲間と喜びや悔しさを分かち合えることそのものをすごく楽しんでいるんじゃないかな?なとど勝手に想像している」と心意気を推察する。野球人生で最も屈辱的な一日と、最高の一日をともに味わったイチローは、マリナーズでプレーする時と確かに違っていた。決勝の後、松坂が「背中で引っ張るとはこういうことだと判った」とコメントしている。

 朝鮮日報は「日本、キューバを10-6で下し初代王者に」で「日本はメジャーリーグなど世界各国のプロスターが参加した今大会に優勝し、名実共に世界一となった」と報じたのだが、この隣国では妙な嫉妬心がまだ残っているらしい。ソウルに住む女性ブロガーの「韓国でみるWBC」(蝶も花も夢をみる)が「今日の日本の勝利も韓国の報道では[日本、でたらめな対戦表とメキシコの助けで得た恥ずかしい『初代優勝』]になっちゃうわけです。なんか悲しい。どんな報道をするにしても悪意のある報道って悲しいな」と伝えている。事前に決められたルールの中で勝負をつけるのがスポーツである。我々も、つい感情に走る報道をすることもあるが、長く尾を引かないようにしたいものだ。