看護師不足起こし老人医療放棄を強行 [ブログ時評57]

 医療制度改革関連法案が衆院を通過し、今国会で成立の見通しが立った。この「改革」では、慢性疾患などで長期入院している患者の「療養病床」全国38万床を、2012年度までに15万床に減らし、いわゆる「社会的入院」に大鉈を振るうことが目玉になっている。まだ、これからの話だと思っていたら、この4月の診療報酬改定で病床削減を促す、「先取り制度改革」があり、全国の病院が大騒ぎになっている。

 四病院団体協議会が全国で緊急調査し「看護師の確保が困難な中小の民間病院を中心に約1割の病院が運営困難に陥っている」との結果を発表した。一般病棟の場合で看護職員1人当たりの入院患者が15人、13人、10人が従来の区分だったのに、新たに7人の区分を設け、従来よりも高い区分に移らないと報酬が減る仕組みとした。このため大病院を中心に仲介業者に1人100万円を払ってでも看護師を引き抜き、診療報酬を維持しようと躍起になっている。

 あおりを受けている病院に勤めるナースが書く「療養型は今大変です」は危機的状況を報告している。「医療区分2以上の人を入れないと、病院は赤字になるらしいです。医療区分2の人というのは、鬱病の人、あと認知症等で暴力行為がある人、褥瘡が酷い人もだったかな?嚥下機能訓練中もよかったと思う。医療区分3の人は循環や呼吸不全で常時医療が必要な人で、今まで普通に療養型に入院していたただの寝たきりの人は医療区分1ってことで、病院としては置いておけないんだそうです。いても儲けにならないから」。さらに、看護職員1人当たりの数え方が旧式だが「看護師の数が、現在の患者数5対1ではなく、4対1にしないとちゃんとした診療報酬がもらえないという事で、どの療養型の病院も躍起になって看護師募集してます」「毎月のように退職者がでるもので、採用しても追いつかない。このままでは病棟閉鎖か?という位の危機です」

 病院経営側の「病院の1割、経営危機〜地域医療の崩壊が心配です」も書く。介護保険実施時に職員配置基準がゆるい療養病床が出来て転換したのに「医療制度改悪法案では、『療養病床』を全廃しようとしています。ファッショ小泉と厚生労働省の悪巧みです。医療機関側は、かけたはしごをいっせいにはずされたのです」「私どもの法人は、120床病院と3つの無床クリニックを運営していますが、従来のままだと9千万円の減収になるところでした。全職員で知恵を出し合って必要なところに経営資源を集中することにし、病院の一般病床90床を7:1看護配置に、30床の療養病床は一般病床に転換する目途が立ちました」

 開業医が書いている「町の病院が潰れる」は悲惨な予想をしている。「これまで病院は、在院日数の減少、紹介率の上昇、医療の標準化など効率化に励んできましたが、改定ではこれらの努力は無視され、看護師の人数だけで診療報酬が決まるようになってしまいました」「この余波を一番受けるのが実は高齢者です。大病院では長期の入院は困難なため、長期入院の受け皿が中小の民間病院です。これは経験しないと理解できないことですが、大病院で退院勧告され自宅での介護が無理な場合、次の受け入れ病院を探すのは大変なことです。中小の病院が次々に閉鎖されるとますます大変になるでしょう。在宅介護が国の方針なので致し方ないのでしょうが」

 総医療費抑制のために在宅介護が打ち出されてはいるが、今回の診療報酬改定では本気で在宅介護をするつもりがあるのか疑いたくなる、もう一つ驚くべき改悪が行われた。病後のリハビリを最大180日しか医療保険の対象にしないと決めた。この改悪を新聞に投稿、告発した脳梗塞の免疫学者、多田富雄さんの「リハビリ中止は死の宣告」はネット上でも共感を呼び、反対署名運動が広がっている。「昨年、別な病気で3週間ほどリハビリを休んだら、以前は50メートルは歩けたのに、立ち上がることすら難しくなった。身体機能はリハビリをちょっと怠ると瞬く間に低下することを思い知らされた」「リハビリは単なる機能回復ではない。社会復帰を含めた、人間の尊厳の回復である。話すことも直立二足歩行も基本的人権に属する。それを奪う改定は、人間の尊厳を踏みにじることになる。そのことに気づいて欲しい」「今回の改定によって、何人の患者が社会から脱落し、尊厳を失い、命を落とすことになるか。そして一番弱い障害者に『死ね』といわんばかりの制度をつくる国が、どうして『福祉国家』と言えるのであろうか」

 いくらリハビリをしても症状が良くならないから打ち切るというのは、交通事故などを対象にした損害賠償保険の考え方だ。公的な健康保険の考え方ではない。厚生労働省がここまで医療と保険について無知だったとは、想像もしていなかった。そして、一連の改定が公明党を与党として実施されていることが信じられない。母体である創価学会は高齢者の支持が厚く、選挙運動は婦人部が担っていると言って過言でない。これから半年後、1年後に病気の高齢者を抱えた家庭がどのような状況に陥るか、想像するのは難しくない。来年の参院選にも大きく響く可能性がある。


 【関連】医療制度改革試案とメディアの虚栄 [ブログ時評37]