労働を労働でなくす偽装請負の横行 [ブログ時評61]

 新聞やテレビで集中的に取り上げられて、大企業での偽装請負の横行や労働法規無視に関心が高まっている。ネット上では若年層の生活やキャリアを圧迫している実態や、外国人労働者の酷使などの体験報告も出ている。

 「雇用形態 〜請負編〜」(労働サポートセンター@ブログ)で、まず請負契約と労働の違いを確認しよう。請負で得られるのは「『賃金』ではなく『報酬』であり、労働基準法を初めとした労働法の保護対象外であり、厚生年金ではなく国民年金、健保ではなく国保、失業保険の対象でもなく、有休もない。何時間働こうが残業代もなく、税金の申告は自分で確定申告をします」「請負は、基本的に業務を請け負うのです。その業務をこなしさえすれば、働き方について取引先に管理されたり指示されたりはしません」「世に請負契約を結んでいる方はたくさんいます。しかし、自分が請負契約を結ばされているということを理解していない方もたくさんいます」

 こうして実態は労働なのに、請負であると偽装して労働法規の保護から外され、不利な状態に置かれている労働者が多数発生している。大企業の前にIT業界で別の観点からも問題になっていた。「IT業界の問題点 - 偽装請負」(ビジネス指向のエンジニア日記 - ビジョナリーカンパニー作成日記)はこう指摘する。「中小のソフトハウスには、独自の技術もなく、経営が優れているわけでもない会社が沢山あります。なぜそんな企業が生き残っていられるのか、それは偽装請負を行っているからです」「偽装請負が問題なのか、それは最近になってIT業界の発達を妨げていることが認識されたからです」「そこには社員を育てようという気はまったくなく、人を商材としか考えていない経営者が多くいて、技術者を使い捨てする事も何とも思っていない経営者がいるのです。でも騙されてこんな会社に入社してしまう新人技術者が後を絶ちません」

 松下電器など大企業の悪質な使用実態を暴く声も聞こえる。「若い人達へ 今こそ声を上げて欲しい」(松下プラズマディスプレイ社 偽装請負事件)は、どんどん安上がりな雇用になるよう下請け会社を変える手口を告発している。「プラズマディスプレイの製造ラインで封着工程という部門は一番重要な部門であるということは、松下プラズマの班長も私に言っていた。そして、その部門を支えてきたのは私やSさんやNさんといったパスコの従業員だった。だから、松下プラズマの班長達が会社命令でパスコの従業員を条件の低いコラボレートに無理矢理移籍させようとした時に」「封着工程のパスコの3人の従業員が首を縦に振らなかった時も辞めさせることが出来なかったのである」「パスコの従業員達に対して、松下プラズマが行なってきたことは実にえげつなかった。松下の命令でパスコの従業員がコラボレートの従業員に仕事を教えるということをしていたのだが、これはある程度仕事を教えたら自分がクビになるということを意味していたのである。クビになりたくなければ、条件の低いコラボレートへ移籍しろということである」

 「漂う若者『先がない』 偽装請負の工場 生活費は数万円 突然の解雇予告」(ウーツー[CDレビューア])に現れる、大幅にピンはねされている派遣会社の労働者も偽装請負の可能性が高そうだ。「僕はかつては正社員だった。会社にとって無用の僕は製造の子会社で3勤3休の2交代12時間勤務に送られた。立ちっぱなしで足はむくんで、足の裏が痛くて、帰りに歩けなくなることもあった」「僕はまだ恵まれていた。工程の8割を占める派遣会社の青年は、会社から派遣会社に渡される一人当たり30万円の金のうちの2分の1、15万円の金しか渡されてなかったのだ」「交代の時間がきて裏番の青年が腹が痛いと言っていた。おそらく有機化合物の臭気のせいだろう。僕は『早く医者に行ったほうがいいよ』と言ったが、彼は答えた。『僕は健康保険に入ってないから、医者にかかれない』」

 労働法規ほど守られていない法律は少ないと言われる。労基署は請負契約だと知ると、それ以上の追及を止めてしまう傾向が強い。次に挙げるシャープ亀山工場の報告にも呆れる。「派遣と請負の・・・」(みんみんざる碁の日記)は言う。「驚くべきはその勤務シフトです。亀山は24時間を2交替で操業しています」「シャープやM社の正社員は3勤2休が原則です。それは残業や休日出勤があったら労働基準法違反になるからです。派遣のスタッフは4勤2休が原則です。1出勤日の労働時間は10.5時間です。労働基準法は週40時間労働・残業は1月40時間まで、という事になっていますが、普通に全部出たら『違反』になってしまいます」「日系ブラジル人の勤務シフトたるや6勤2休および6勤1休なんです」

 第152回「20代男性の3人に1人は生涯未婚の恐れ」「非モテ」意識と親同居独身者の増加 [ブログ時評60]で描いた、若い世代が親から独立できず、異性との交際が細っている問題の大きな背景に、こうした労働の実態があるのは間違いない。