車が売れない現象は若者の指向変化か [ブログ時評79]

 日本企業初の営業利益2兆円突破のトヨタ自動車にして、2006年の国内乗用車販売実績は前年比97%の約146万台だった。販売減少は2年連続だ。日産自動車に至っては前年比87%の約65万台、ホンダがやや健闘して前年比97%の約64万台。すっかり「車が売れない」現象が社会に定着してしまった。日本の自動車産業は乗用車についてみれば国内と海外でそれぞれ1000万台を生産しているのに、国内販売が500万台を大きく割り込む事態になった。好調のはずの日本自動車産業の足元が危うい。

 「☆ 売れない・・・ ☆」(小☆覇☆王☆日記)は「だが何より、若い世代の興味や行動の変化が大きいようだ。ここ数年、20〜30歳代を中心に、将来の収入や家計負担に対する不安がより高まった。子どもの教育投資、住宅ローン、税金、金利、医療費などの負担が重くのしかかり年金制度への不信も強い」「自動車ほど価格が高くなく維持費もかからないデジタル家電を優先させる傾向が強まっているという。毎月の出費も、携帯電話やインターネット接続料などがかさみ、車が敬遠される要因になっている」と指摘する。

 「『世界一』の苦悩 」(じょーむ50才 地方都市会社役員の毎日思うこと日記)は連結売り上げ高24兆円がロシア国家予算と並ぶトヨタの苦悩に対して「主な原因は二つ」「性能が良くなりすぎて、買い替えの必要性を感じさせない」「意外なライバルは携帯電話。通話料がかさむので車が買えない」「決定打はないが対策は考えている。モデルチェンジ、新型車導入、残価ローン設定、旅行社との提携」「あらゆる方法を模索しながら、販売増に挑戦するとの事」とまとめる。

 実際のところ各社の目が向いているのは団塊の世代など、これまでに車を買ってくれたことがある層を掘り起こすことでしかない。車を持とうとしない若い世代に効く対応策は見いだせない。

 日本自動車工業会のJAMAレポートNo.100「運転者の変化と使用・保有状況」にある「図8.主運転者年齢」から1995年と2005年の分を以下に抜き出す。  1995年の販売台数はずっと多かったのだから、10年間で若い世代の乗用車購入は半分に減った印象だ。20代まで合わせて11%の状況では、クルマは若者のものとはとても言えない。そして車離れは上の世代にまで及んでいる。10年後の調査だから、世代がひとつずらせる点に留意して数字を見て欲しい。20代から上に波及している傾向は、新聞購読者やNHK視聴者での若者離れと似通っている。

 「若者のクルマ離れ…都会で売れない」(response.jp)は2007年1月、サンプル3000のインターネット調査で男女20〜34歳層の「車を欲しいと思わない」理由を以下のように集計している。
 1位…今の生活では特に必要性を感じないから(74.1%)
 2位…車の維持費・税金が高いから(52.0%)
 3位…他の交通機関で事が足りているから(51.9%)
 4位…車以外のものにお金をかけたいから(43.9%)
 5位…車本体を買う金銭的余裕がないから(36.9%)

 この調査にはどんな企業に車をデザインして欲しいか、問う項もあり、そこではソニーやアップルが上位を占めた。先日、タクシーから、あるGTカーのリアスタイルを見て痛くがっかりした経験がある。こんな不細工な車、自分なら決して買わないと思った。かつてクルマ好きの私だからこそ、現在の日本車にときめくものを感じるのは難しい。

 では、若い世代は本当に車を見捨ててしまったのだろうか。それが判ると面白いと、警察庁の免許保有統計の数字を国勢調査の世代別人口で割ってみた。  運転免許保有率がこれほど高いとは知らなかった。若い世代も女性を含めて十分に高い。マイカーは持たない、あるいは持てないとしても、車を走らせたい気持ちに差は少ないのではないか。文句無く良いクルマがあれば、そして若い世代では3分の1にも達している非正規雇用、低賃金の状況が改められるなら、国内市場は再び膨らむのだろう。膨大な利益を上げている自動車産業には、その期待に応える義務がある。