若い男は体形も生活もオヤジ世代と決別 [ブログ時評84]

 経済産業省は10月初め、人体データの計測結果「size-JPN 2004-2006」をとりまとめて発表した。工業製品の寸法を決めるために前回1992〜1994年にも実施しており、比べると男性の30歳以上は体格が大きくなり太り気味なのに、女性は肥満度を示すBMI値(体重(kg)/(身長(m)の二乗)が大きく下がり細身になる傾向がみられた。「太る男性とやせる女性」の構図自体は以前から知られていることで、例えば私も2000年に第83回「続・肥満と食欲の仕掛け」で国民栄養調査をもとに論じた。その英語版「Men Getting Fatter, Women Getting Thinner」は私の英語サイトで最も読まれているファイルの一つだ。しかし、今回の発表で示された20代前半男性の体形データは極めて特異で、男性の領域から離れ、女性に急接近していた。まさに目を疑う思いがした。

 発表された「今回と前回(1992年〜1994年)の平均値グラフ」そのものを引用するのが分かりやすい。  BMIや臀突囲で特に著しく、バスト囲でも相当程度、20代前半男性だけが同世代の女性の値に接近している。詰まるところ、この男性たちは太りすぎている年上世代と決別し、スレンダー志向の同世代女性と並んで生きようとしているのだろう。国民健康・栄養調査の結果を時系列で並べると、もっと見えてくる傾向がある。  平成10年(1998)には20代までも年上世代に習って肥満の道に進むかに見えたのに、平成15年(2003)には20代の肥満は減り、30代以上とは違ってきた。その原因は10代後半男性にあるように見える。「やせ」型の割合が同世代女性を上回る勢いで増えている。ただ、私には、あまり健康的とは思えない。

 20代を中心に若い女性に「やせ」型が異様に多い理由について「図録▽男女の体型(肥満・やせ)の実際と自己認識」(社会実情データ図録)は「特異なのは、女性の10代後半から30歳代であり、男性以上に実際より太っていると思っており、また実際はやせているのにやせていると思っている人は少ない。20代女性では、5.4%しか太っていないのに41.4%が『太っていると思う』と答えており、21.4%は低体重(やせすぎ)なのに、『やせていると思う』は15.0%とそれをかなり下回っている」「こうした若年女子の特異な自己認識(スレンダー志向)が、低体重(やせすぎ)を生んでいることは明瞭である」と分析している。

 ブログの声「size-JPN 2004-2006の調査結果」も「最近の女性をみていると、痩せているというよりもやつれている感じの女性が多いような気がします。女性はもっと健康的に太るべきではないでしょうか。拒食症キャンペーンなどの広告をみているとそんな感じがします」とみるのだが、若い男性たちはその女性像に、にじり寄ろうとしている。

 8月22日に日経流通新聞が首都圏に住む若い世代の消費行動について、興味深い「MJ若者意識調査」を紙面に出した。「いつも車や酒を好むとは限らない20歳代の消費行動」(Klugクルーク)は結果を引用して、こう指摘する。「20歳代の回答者のうち、お酒を全く飲まないか、月に1回以下しか飲まない割合は34%、休日をほとんど家で過ごす、もしくは家で過ごすことが多い方の割合は43%と半数近くを占めています。日経流通新聞では、こうした調査結果を引用し、『巣ごもる20代』と大きく見出しをつけ、今の20歳代は、堅実で小規模な暮らしを好むと報じています」「人間は時代や世相の影響を受け、行動様式を周囲の環境に応じて変化させるものです。若者はお酒や車が好き、若者は貯蓄よりも消費を広げる、という考え方は、戦後の日本経済を語る上で典型的なものだったかもしれません。しかし、人間を相手にビジネスをする以上、企業も顧客の変化にあわせて企業活動を変えていく必要があるのでしょう」

 MJ若者意識調査を見た際、分かるようでいて、もうひとつ腑に落ちないものが残った。体形というものは主に食生活から生み出されるから、優れて生き方の産物だ。今回の発表を分析して、善し悪しは別ながら、若い世代の男たちがオヤジ世代とは違う生き方を選択したのだと理解すれば納得がいく。「太る男性とやせる女性」という対立構図ばかりがメディアで流されたが、実はその構図の終焉こそが語られていたのだった。もちろん、バブル崩壊後の長い就職難、非正規雇用が3分の1に達する中で生まれた将来への不安などを背景にしてだ。