第161回「医療水準は全員参加の見積書で決定を」

 日経が朝刊トップに「概算要求基準、社会保障2200億円抑制を堅持 財務省方針」を掲げました。「社会保障費の自然増分を2200億円抑制するほか、公共事業関係費を3%削減する方針だ。医師不足対策などの重点施策には『要望枠』を08年度よりも拡大し、各省庁が上乗せ要求できるようにする」というのですから、医療崩壊が言われる時期なのに、ほとんど変わらない予算編成になりそうです。

 2200億円抑制の根拠になっているのが、自然増だけで7〜8千億円あるとの見方です。ではどういう仕掛けでこれだけの自然増が生まれるのか、詳細について政府は明かしません。日本では官僚がデータを握って、アカデミックな研究者にすら見せようとしないのです。「これきわ雑記」というお医者さんのブログが「グラフで見る 医療費の将来推計」で色々と前提を置いてグラフ化する試みをされています。ひとつグラフを引用させてもらいましょう。  70歳以上の高齢者と一般を分けて、1人当たり医療費の伸び率が変わるとどう変化するかを見ていて、上のグラフは2003〜2005年度の平均値(一般0.9%,高齢者1.1%)を採用していますから、かなり蓋然性が高そうな例です。2065年に63兆円のピークになります。もっと大きく伸びると仮定したら「一般1.4%,高齢者1.6%だと、2095年に86兆円でプラトーになりました」。

 見方を変えると医療費の将来推計など、さじ加減ひとつで、いかようにも変えられるのです。国が危機的とする説明に納得できかねるゆえんです。「平成19年7月の『第5回医療費の将来見通しに関する検討会』の資料を見て」「平成18年度の医療制度改革の結果、2025年の医療費が56兆円から48兆円に抑制される、という推計です」「しかし、厚労省(旧厚生省)は、平成6年には同じ口で、2025年の医療費は141兆円と言っているんですよね。元データや算出方法が明示されていませんので見当もつきませんが、なんでこんなに推計値が大きくズレるのでしょうか? 変ですねえ」と疑問を投げています。

 この隘路を抜け出して広く納得してもらうには、慶応大の権丈善一教授が唱えている「“医療崩壊”阻止には『見積書』が不可欠」との考え方を拡大して、医療水準を決めることで医療費の見積もりもきちんと出し、それを賄える財政措置を考えるようにするしかないでしょう。「医療者に求められていることは、あるべき医療や介護の姿を描くことです。専門家集団として、『公的医療費として、いったいいくら必要なのか』、つまり『見積書』を出してもらいたいのです。必要な医療費増が数百億円の単位なのか数千億円の単位なのか、それとも数兆円の単位なのかにより、財源をどこから調達するかが全く異なってくる」「『見積書』は、総額だけではなく、医療内容まで具体的に提示することが必要です。年金と異なり、例えば『医療費を国民1人当たり約4万2000円上げて総額5兆円増』と試算しても、それにより、どんな医療を享受できるようになるか、それが具体的に見えないと国民の納得を得るのは難しいでしょう」

 権丈教授は医療者集団に見積書作成を求めていますが、支払い側を含めた全員参加で作成していくしかないと思います。もしも画期的な新薬が現れたとしても、何千億円も医療費を膨らませるのだとしたら、使い方を極めて限定することだって考えざるを得ません。現在のように薬や診断機器の改善・改良があればノーチェックで医療費を膨らませる実態を改めるべきです。第160回「年3000億円の大浪費・コレステロール薬」などがその最たる物でしょう。