民間健保への国財政の寄生、限界を超す [BM時評]

 西濃運輸グループの健康保険組合解散のニュースは、猛烈な勢いで拡大してきた国医療財政の民間健保への『寄生』が行き詰まったことを象徴するものでした。健保連がまとめている「平成20年度健保組合予算早期集計結果の概要」の「表5 保険料収入に対する拠出金・納付金の割合別組合数」を見て、ここまで来ていたのかと驚きました。前期高齢者と後期高齢者への拠出金を合計した部分を抜き出してみます。  高齢者医療を前期と後期に制度を分けた今年度「改正」で、これまで以上に健保が拠出する分を増やした結果です。前年度比5094億円増の2兆8423億円が拠出されます。健保が組合員から集めた保険料の半分に近い46.5%が、健保の外にいる高齢者用に「上納」されている訳です。それも国によって強制的に吸い上げられる形です。余裕があって支えているのならともかく、今年度は9割の健保が赤字を見込んでいるのですから、過去の余剰金が大きく積み立てられているのでなければ長く続けられません。

 「西濃健康保険組合の解散の影響」が説く危惧が本物になる可能性が高いでしょう。健保組合が本来の業務では「赤字でもないのに解散するということは、健康保険制度の財政政策を崩壊させることになります」「健康保険組合の解散が続けば、健康保険料が上がるのは必至ですし、自己負担金の割合も現在は3割負担ですが、もっと上がるでしょう。健康保険制度の崩壊が近いかもしれません」

 来年度の厚生労働省予算について、日経は23日付けで「社会保障費の増加は8700億円の伸びと見込まれているが6489億円に抑えた。ただ、具体的な抑制策は示さず」と伝えました。はっきり言うと安定財源のめどは立っていないのです。1年限りの約束で、政管健保の国庫負担削減分750億円を健保連に肩代わりさせた措置を恒久化する画策もあるようですが、2007年度には社会保障費は1兆年も増えたのですから、焼け石に水とも思えます。

 ここまで危機が深まれば、民間の健保組合など要らないと言う考え方も出て来ます。「西濃運輸の健保の解散」は「私も規制撤廃による民活導入には一般的に賛成だが、健保の話しは筋が違う。国民全体の社会保障制度をどうするかという話しだから、大企業関係者や公務員だけが利益を享受している今の制度はすべて撤廃すべきであろう」と主張します。高額療養費の補助など、かなり大きな差があるのは事実です。政管健保も国民健康保険も組合健保も一本化して、国民に広がる不公平感を無くせと説きます。

 当然ながら健保連は「医療保険制度における財政調整と財源負担に関する調査研究 中間報告書(概要)」で一元化論について「所得捕捉が明確な職域保険と、所得捕捉が必ずしも十分でない地域保険を統合した韓国で、結果として保険料率の上昇を招き、特に職域保険加入者への負担が増大したことは、示唆的である」と懐疑的です。

 百年の計とは言いませんが、せめて10年、20年先まで見通せる健康保険制度をつくるのが、政府の責務です。それなのに、来年度予算要求の段階で整合する数字を出せない現状です。首相も厚労相も別に不思議と思われていないところが、とても不思議ですね。

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