第164回「膨大な食品廃棄と家庭料理の衰え」

 「世界中で生産された食物の半分が食べられることなくムダに捨てられている 」というGIGAZINEの刺激的な記事に出会いました。加えて、先日、服部幸應・服部栄養専門学校校長の文章を読んでいて、日本の食糧自給率はカロリー・ベースで40%しかないのに、自給分の9割近い価値の食品を残飯などとして捨てている――との指摘が目に付きました。コンビニなど流通過程を含めた食品廃棄の膨大さはよく耳にするところです。ここで集められるデータをまとめておくことにします。というのも、簡単な検索で引っかかるのは誰かの書いたものの孫引きばかり(ブログの時代になって強まった傾向)で、意外にきちんとしたデータが見つかりにくかったからです。

 GIGAZINE記事の引用元は「Half of All Food Produced Worldwide is Wasted」です。「作物の15〜35%は田畑で失われ、10〜15%は加工、運搬、貯蔵の段階で廃棄される」としています。米国なら30%の食品が捨てられ、その価格は483億ドル、5兆円余りになるとします。「これは5億人の家庭を満たすのに必要な40兆リットルの水を垂れ流しにしているのに等しいそうです。というのも、食物を生産するには大量の水が必要であるため。食物をムダにすることは水をムダにしていることにもなっている」

 国内で相当する記述を探すと、事務局を兵庫県庁に置いている「ごはんを食べよう国民運動推進協議会」の「日本の食料事情」は「日本で残飯などとして捨てられる食べ物は年間2000万トン、食料供給量の約1/4にもなります。金額では、11兆円に上るともいわれており、その量は年々増えています」と述べています。2002年の1人1日当たり供給熱量2600カロリーに対して、摂取熱量は1875カロリーしかなく、28%は製造・流通段階以降で捨てられています。

 価格にして米国の2倍もの食品を日本は捨てているのか――との疑問がすぐに浮かびます。「Stop The Waste!」には「96 billion pounds of food are wasted each year」とあり、計算すると4390万トンの食品が米国では捨てられているそうです。日米の人口格差2.3を考えると日本なら1900万トンになる数字で、よく合っています。価格差2倍の問題は推計する際の前提の置き方が違うからでしょう。日米ともに飽食ぶり、無駄捨てぶりは同じなのです。

 国内の食品廃棄2000万トンという数字は実は10年くらい前の記事から繰り返し使われています。最近、どう動いているのか見たいので数字を探しても、直ぐには出てきません。家庭の廃棄物は環境省、製造・流通・外食の廃棄物は農水省の管轄に分かれているためです。環境省の「家庭における生ごみ排出量の推移(推計)」をみると、1999年(平成11年度)には台所から出る生ごみは1245万トンもあったのに、2005年には1054万トンに下がっています。農水省には「平成19年食品循環資源の再生利用等実態調査結果の概要」があり、食品産業は毎年1130万トン前後の廃棄物を出していますが、近年はその59%が再生利用されているとあります。  お役所を相手にしていると実に煩わしいですね。どこかに一目で判る資料はないかと探すと、保存料メーカー、上野製薬の「食品廃棄の現状について」に行き当たりました。8月にデータを更新したばかりのものです。食品廃棄量は年々減って2000万トンを割りました。食品ロス統計調査からのデータが面白く、家庭では5%近くあった食品ロス率が年々下がって4%を切りました。食べ残しの減り方が特に大きいのですが、「家庭における生ごみの減少については、外食・中食を含む食の外部化率の高まりが影響していると推測されています」との注が付いています。

 服部幸應さんもこういうエピソードを紹介していました。調理師になろうと入学してくる学生に「家庭の母親の料理を作ってみろ」と命じると、韓国など海外から来た学生は出来るのに、日本人学生はまるで出来ないそうです。家庭できちんと調理する事が減り、加工食品ばかり子どもに与えているからではないかと推測されています。膨大な食品廃棄量に家庭も業界も何もしないでいる訳ではないと知れましたが、見かけの豊かさと違う、家庭食の貧困も浮かび上がってきました。