第170回「世界消費総崩れに中国だけ軽傷説は疑問」

 欧米も日本も金融危機以降、消費が急速に落ち込んでいます。派遣労働者の解雇など各国の情勢は逐次、発表される経済統計で把握でき、今回の経済危機の深刻さをひしひしと感じますが、もうひとつの巨大経済圏、中国については依然としてブラックボックスに近いと思えます。マスメディアは公式な、つまり困ったことに信憑性を割り引かないといけないデータしか出せず、しかも先進国に比べて発表までの時間が掛かり、適切なアナリストもいません。半年、1年の先に何が起きるのか、見通したい我々には隔靴掻痒です。

 「人民網日本語版」2008年12月11日は「中国経済の見通しが明るい2つの根拠」を掲げ、「中国経済のファンダメンタルズが依然として良好を保ち」とした上で「中国はこれまで長い間、経済成長を輸出によってリードするというモデルを取ってきた。我々は今後、投資増加と内需拡大により多くの精力を注ぐ必要がある」「内需拡大10措置や4兆元投資プランは人々の元気を奮い起こす政策でもあり、経済を刺激するための手段でもある」と、とりあえず楽観的です。しかし………

 その前日の朝日新聞「中国の11月輸出、7年5カ月ぶりマイナス 」は「11月単月の輸出額は前年同月比2.2%減の1150億ドルだった。中国の輸出額が前年同月を下回るのは01年6月以来7年5カ月ぶりで、01年12月の世界貿易機関(WTO)加盟後では初めて。クリスマス商戦用の受注が落ち込んでいた米国向けが同6.1%減となる」と伝えました。

 12月7日配信の中国ニュース通信社「<中華経済>10月=鉄鋼産業、6年ぶりの赤字−中国」は「中国鉄鋼工業協会は会員企業71社の10月の損益が58億500万元の赤字となったと発表しました。鉄鋼産業全体が単月で赤字となるのはアジア金融危機の98年以来」と報じています。

 急成長持続だった中国経済もかなり根底から揺さぶられ始めたと考えざるを得ないのです。人民網日本語版の華々しい「内需拡大10措置や4兆元投資プラン」とは何でしょう。「【記者ブログ】中国が世界同時不況に貢献する方法 福島香織」によれば「1200億元相当の企業向け減税を柱とした内需拡大策10項目を打ち出し2010年までに4兆元(57兆円)を投入するという緊急経済対策を打ち出した。これ、誤解されている部分もあるが、4兆元まるまるの財政出動、ということではない。要するに総額投資規模が4兆元。現地のアナリストに聞いてみると、プロジェクトの中にはすでに予算が組まれているものもあって、新規のものは4〜6割程度ではないか」であり、「ところで、財源は?というと、これが一言も書いていない。さすが独裁国家。財源を書かなくてもOKなのである。で本当のところ、どうするのか、と、いろいろ情報をかき集めると、全体のうち中央財政出動が2割くらいをしめて、2割が企業債(社債)、あとの6割が銀行融資、らしい」という有り様なのです。

 これから状況を見ながら、中国経済の動向についてネット上のデータを収集、整理していきますが、まず最も基本になるところから。外務省の「主要経済指標」から、名目GDP(国内総生産)及び一人当たりGNI(国民総所得)です。内需拡大にはGNIが注目でしょう。  「US-China Trade Statistics and China's World Trade Statistics」の米中貿易の推移も見ておいてください。中国側から見て2007年の対米輸入652億ドル、対米輸出3215億ドル、差し引き2563億ドルの黒字です。少し前までは「チャイナ・フリーの生活なんて無理」と言われた米国ですが、大不況下でつつましく生きようとすればまず抑えるのが、どうでもいい安物商品の購入なのではありませんか。25兆円の対米黒字が大半消える可能性も否定できません。

 日中間の数字なら「中国・日中の主要経済指標」をご覧ください。ここでは対中直接投資契約件数が昨年から今年第3四半期にかけて急速に落ち込んでいる点が注目です。「世界の工場」としての資格は既に剥奪されたようです。