非常識な検察捜査とメディア報道の愚劣 [BM時評]

 政治資金規正法違反容疑での小沢一郎民主党代表の秘書逮捕をめぐる、メディア報道の愚劣さには目を覆うものがあります。犯罪として実質的な悪質さがあるのか疑問なのに、司法担当記者に検察側から意図的にリークされる情報で「ここまで分かった」と大げさに報じるばかりです。果ては官房副長官がオフレコの懇談で「西松建設からの政治献金では自民党に捜査は及ばない」と漏らした重要な場面に遭遇しながら、記者クラブ制度の約束事に足を取られて明解な記事が書けない有り様です。読者や視聴者、つまり市民社会の側よりも権力の側に向いているスタンスが透けて見えてしまいました。

 西松建設からの政治献金の虚偽記載容疑は極めて形式的な容疑です。小沢代表が釈明したように、企業からと判っていれば政党支部で受ければ何の問題もありません。司法を担当した記者の常識として、これで強制捜査が発動されるとしたら、その奥に実質的な「巨悪」があるのでガサを掛けて証拠品を押さえる場合なら許されると思います。ところが、今のところ何も臭ってきません。

 ビデオニュース・ドットコムの「理解に苦しむこの時期の小沢氏秘書の逮捕〜元検事・郷原信郎氏インタビュー」で、郷原・桐蔭横浜大学法科大学院教授が強制捜査には「次」があることが常識なのに、今回は考えにくい状況と疑問を投げかけています。さらに、逮捕の容疑そのものについてすら「政治資金収支報告書には政治団体の名前を記載しても違反にはならない。政治団体がなんら実態の無いダミー団体で、しかも寄付を受け取った側がその事実を明確に把握していたことが立証されない限り、政治資金規正法違反とは言えない」と懐疑的です。

 「情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)」は「小沢代表の説明に納得できない人多数という毎日新聞の世論調査に異議あり」と、「代表を辞めるべき=57%」を引き出した世論調査に抗議しています。電話による調査では複雑な状況を説明することが出来ませんから事件への印象で答えることになります。その印象を形作っているのが検察寄りの報道なのです。進行していく事実を伝えることに汲々として、「それはおかしいのでは」と立ち止まって考えることが苦手な国内メディアの悪い体質が増幅されています。

 官房副長官を匿名の「政府高官」としながら問題発言を報じた一件について「池田信夫blog」は「記者クラブの2ちゃんねらー」で「今回のような『記者懇』の話は、複数の記者の前で話したことだから、もともとbackgroundではありえない。どこの社も同じ話を引用して公然の秘密になっているのに、本人が誰か報じることができないという滑稽な状況は、世界のどこにも見られない」と痛烈に批判しています。

 率直な話、今回の政治資金規正法違反容疑での逮捕を先例とするなら、逮捕しなければならない政治家の秘書は何百人といるはずです。検察は今後も同じ基準で強制捜査を発動しなければいけませんし、当然ながら自民党の方が多くの逮捕者を出すはずです。「国策捜査」との批判に反論すべく、逮捕者の山を築いていただきたいものです。