国際規制強化に間に合ったマグロ完全養殖 [BM時評]

 クロマグロの大西洋と地中海での資源が細っているのを問題視して、全面的な輸出入禁止が来年3月のワシントン条約締約国会合で話し合われる動きがある中、読売新聞の「近大の完全養殖マグロ、過去最大の出荷数に」はグッドニュースでした。「幼魚(ヨコワ)の今年度の生産は約4万匹で、昨年度の4倍に増えた」「体長25〜40センチ、重さ200グラム〜1キロのヨコワに育った。すでに先月から、国内4か所の養殖業者に向けて出荷を始めている」といいます。1匹50キログラムサイズに育てれば合計2000トンですから、クロマグロの国内供給量4.3万トンの5%に相当します。

 天然マグロの幼魚を捕まえて大きくする養殖、短期間だけ餌を与えて太らせる蓄養と違って、近畿大は交配、産卵、孵化、飼育まで管理する完全養殖です。2002年に完全養殖成功のニュースが流れましたから、今年出荷分は最初の親から数えて第3世代です。最初は漁師からも相手にされず、成功まで32年かかった研究ですが、資源枯渇から国際的な規制が現実になる時期に間に合うなんて、研究者冥利に尽きる話だと思います。

 時事通信の「漁業国との連携強化へ=クロマグロ取引禁止を阻止−水産庁」は「日本は既存の漁業管理機関で厳しい漁獲規制を決定し、取引を続けたい考え。このため、規制強化に消極的な地中海諸国などに対し、合意形成に向けて働き掛けを強める」と伝えていますが、現在の自主的な規制が生ぬるくて資源を3分の1以下に減らしている現状からは説得力に欠けます。

 マルハニチロなど水産大手はマグロ養殖拡大に手を着け始めました。でも、海外から入る量が大幅に減れば、大きな需要を賄うには足りません。「クロマグロの完全養殖が問うもの 」(TrendWatch)は「養殖事業は、大変リスクの高い事業であり、ある一定の規模を確保すると同時に、技術的課題をクリアにしないと収益が上がる構造にならない」「所轄官庁だけではなく、生産者が潤うビジネスモデルを官民共同で構築することが求めれらている」と課題を指摘しています。

 一方で、近大の先生たちは人工孵化した幼魚を世界の海に大量に放してクロマグロ資源を回復させる夢を持っていると、前に聞きました。規制を避けて目先の利を追うだけでは、マグロ大量消費の日本はいつまでも資源を奪う悪者です。国産の完全養殖技術をもっと大胆に使って、世界に資源回復をアピールすることをなんで考えないのか不思議です。

 【追補】2010年3月、ワシントン条約締約国会議が始まりました。「クロマグロ禁輸で漁業と水産養殖を見直せ」を書いています。