第203回「衝撃:ネアンデルタール遺伝子が現生人類に」

 米国「サイエンス誌」の研究発表を伝えた「ネアンデルタール人の遺伝子、我々にも? ゲノムで解明」(朝日新聞)などの報道は衝撃的でした。50万年前にヒトと分かれたネアンデルタール人の血が数万年前に人類に混じり、今に伝えられているとする研究です。ネアンデルタール人は欧州と地中海周辺にしか住みませんでした。国際研究チームはそこから遠い中国人、パプアニューギニア人のゲノムからネアンデルタール遺伝子を検出する一方、アフリカ人からは検出できませんでした。アフリカで生まれて世界に広まった人類が、アフリカを出た直後に混血を起こした可能性が高いのです。

 今回の研究論文はネット上に全文が提供されています。「The Neandertal Genome - Comparative Genomics」から順にたどっていただければ論文のフルテキストまで行けます。「By comparing this composite Neandertal genome with the complete genomes of five living humans from different parts of the world, the researchers found that both Europeans and Asians share 1% to 4% of their nuclear DNA with Neandertals. But Africans do not.」が上記の核心部分です。

 アフリカを出た人類はせいぜい数百人の小さなグループだと考えられています。混血の状況は、わずかな数のネアンデルタール人が、この小集団に取り込まれた感じです。「If a few Neandertals interbred with members of a small population of modern humans, Neandertal gene variants might persist in subsequent generations of modern humans if the interbred population expanded rapidly, thereby spreading Neandertal DNA widely. 」ネアンデルタール人は目の上の骨が突き出した、ごつい顔をしています。低レベル混血の可能性を予言していたというハーバード大の研究者によると、中東で出土するネアンデルタール女性の頭蓋骨はそんなに武骨ではないそうです。

 しかし、今回の研究成果は「National Geographic」が世界規模で進めている「The Genographic Project」と食い違うところもあります。日本国内からも多くの方がDNA採取キットを買い、解析を依頼しています。その結果を自分のブログに掲載している方が多数あり、その中から日本人に多い3つのグループを紹介します。

 まず最大34%のハプログループ「D」に属する「遺伝学的ルーツを公開してみる」で、グループ移動地図を見てください。アフリカから紅海の入口にある海峡「悲しみの門」を突破してインド、東南アジア、沖縄、日本、中国へと移るグループです。

 次は15%を占めるグループ「B」の「私のDNAの足跡・・・ジェノグラフィック・プロジェクト」です。「アフリカから、カスピ海やバイカル湖あたりで枝分かれし、タフな人たちは北に向かい、シベリアからカムチャッカを渡りアメリカ大陸へ」「その他の人たちは、大陸にしばらくとどまり、その後多くは南のポリネシアに向かい(ポリネシア人の95%はこのタイプ)、日本には南西諸島を伝ってきたという学説があるのだそう」こちらの移動地図はシナイ半島付近からアフリカ脱出になっています。

 3番目はやはり15%を占めるグループ「M」の「えむ [ジェノグラフィック・プロジェクト]」です。このグループは一度、アフリカ内部をさすらってから紅海を「悲しみの門」付近で越え、南アジアに広まります。グループ「D」が直接、「悲しみの門」に向かうのと差があります。実は人類はアフリカ内部で一時、非常に人口を減らす絶滅の危機を迎えたとの説があります。生き残りグループが集まり、新天地を求めてアフリカを脱出したのかも。

 世界中の各グループをまとめている「Atlas of the Human Journey - The Genographic Project」で年代を追って地図の変化を見てください。脱アフリカの動きは相当、多様に描かれています。ネアンデルタール遺伝子がアフリカ以外の世界中の人に普遍的だとすれば、もっとシンプルでないと拙い気がします。

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