第281回「市教委から無視される国の食品放射線暫定基準」

 福島原発事故による食品放射線汚染で政府が設けた暫定基準に不信の声が渦巻く中、学校給食の現場を預かる市教委が国基準を無視してチェルノブイリ事故があったウクライナ基準を採用する事態になりました。中日新聞の《松本市、学校給食で放射線測定 ウクライナ基準を採用》は「松本市教育委員会は3日、市内4カ所の学校給食センターで、給食用食材の放射性物質の測定を始めた」「食品を対象にした国の暫定基準値は1キロ当たり500ベクレルだが、松本市教委はチェルノブイリ原発事故の汚染地となったウクライナの基準である1キロ当たり40ベクレルを採用した」と伝えました。

 ネット上などで政府不信が言われ始めたきっかけは、チェルノブイリ事故当時での食品輸入規制値が1キロ当たり370ベクレルだったのに、今回の暫定基準はそれを緩めてしまった点です。さらに中国新聞の《乱発の暫定基準値、根拠もバラバラ》にあるように、各省庁から「乳牛の餌となる牧草は300ベクレル」「海水浴場の海水は50ベクレル」と一般消費者にはにわかに納得しがたい数字が飛び出してしまいました。

 政府不信の結果、Facebookなどのソーシャルメディアで、とんでもない流言飛語がいくつも飛び交いました。例えば東北のある大学教授を名乗る人物が「放射性セシウム137が500Bq/Kgも含まれた食品を3年食べたら致死量に達します」と発言し、相当多数の支持を得ました。ツイッターでも広がっていきました。WHOの基準に根拠があると言い張っていましたが、そのような根拠があるはずもなく、現在は素知らぬ顔で発言原文を削除しています。

 この暫定基準がどのようにして出来たのか、事故半年を経過して暫定のままでよいのか、マスメディアがきちんと報道しない怠慢が社会の混乱に輪を掛けています。メディア報道だけよく見ていると暫定基準が年間の被曝線量5ミリシーベルトを基にしているらしいと見えますが、一般大衆にはアピールされていません。その結果、上記のような3年致死説に飛びつく人が続出しました。

 「勝川俊雄 公式サイト」の「食品の放射性物質の暫定基準値はどうやって決まったか」は説明されていない暫定基準の算出過程をフォローした労作です。資料としてあげられている《「飲食物摂取制限に関する指標について」 原子力安全委員会 平成10年3月6日》が防護対策を導入するか判断する線量としている年間5ミリシーベルトでの計算とだいたい合うようです。

 しかし、文部科学省が子どもの被曝線量として法定の年間限度線量1ミリシーベルトを目指すと公表しているように、「暫定」の季節は終わりつつあります。汚染の存在自体はどうしようがありませんが、年間1ミリシーベルトを目指すなら食品の放射線基準値はいくらになるのか、政府は早急に示すべきです。松本市教委が1キロ当たり40ベクレルを採用したのも、法定年間限度1ミリシーベルトを担保してくれる基準が無いからだと思います。「基準見直しで子どもに配慮して厳しくする」と野田首相は発言していますが、親子で食卓を分けられるはずもなく、現在の法律に戻るしかありません。

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