第297回「核燃サイクルに死亡宣告:再処理工場は完成不能の窮地」

 完成が15年も遅れている青森・六ケ所核燃料再処理工場が試運転を再開したのに、事実上、完成不能の窮地に陥りました。最終ガラス固化工程で溶融ガラスが流下しない初歩的トラブルに対処する方法が無くなっているのです。2兆円以上も掛けた再処理工場が完成せず、国策である核燃料サイクル全体が死に体になってしまいました。溶融炉の構造は以下のようです。  (http://www.jnfl.co.jp/press/pressj2008/080711sanko.pdfから引用)

 毎日新聞の「六ケ所村:溶融炉に不具合 核燃料再処理工場」はこう報じています。《4年前にトラブルが起きた「A系」とは別の試験使用歴のない「B系」の溶融炉を使用。24日に放射性物質を含まない試験用の「模擬廃液」とガラスを混ぜたビーズを炉で溶かし処分容器に流下させる作業を始めたところ、流下速度が徐々に落ちた。作業を3回中断して炉にかくはん棒を入れ、回復を試みたが、不具合は解消していない。流下するガラスに含まれるはずのない数ミリ大の黒い異物が混入していることも判明。いずれも原因は分からず、試験再開のめどは立っていない》

 2年間、実物大の試験装置で実験を重ねた工程改善策を試す以前のトラブルであり、「B系」炉は出来が悪い不良品だったことになります。黒い異物混入とは炉壁などの部材が剥がれ落ちていると考えるしかありません。トラブルに悩んだ「A系」は汚染されて無惨な醜態を晒しており、溶融炉にもう代替えはありません。

やはり毎日新聞が4日前に伝えた「六ケ所村の核燃再処理工場:溶融炉の熱上げ完了 今週末にも製造試験へ−−日本原燃 /青森」は《今回は、模擬廃液とガラスを混ぜた「模擬ビーズ」を固化体11本分入れて溶かし、24日午後10時50分にさらに1本分のビーズを加えて炉内のガラスを流下させ、ステンレス製の容器に入れて固化体1本を製造した》としていますから、現在の炉内は1000度以上の高温に11本分ものガラスが溶けている状態です。

 「A系」と違って本番の高放射性廃液は未使用ですから修理をしたいところです。それには溶融ガラス全部を流下させて、炉の温度を常温に戻さねばなりません。ガラスが残ったまま温度を下げたら修理は出来ません。構造図を見れば分かる通り、無理矢理に流下を続けて細いノズルになっている下部にガラスに混じった異物が落ちていけば塞がれてしまうのは目に見えています。

 4年前に書いた第162回「青森の再処理工場は未完成に終わる運命」の段階は、廃液に含まれる白金族元素の残留物がノズルに残ってしまうトラブルでした。新規開発同然の溶融炉を、実物大の試験無しに実戦に使う無謀さが招いた結果でした。日本原燃は炉内の温度管理を周到にすれば残留物を生成させずに済むと主張して、技術開発のために完成への試運転を延期しました。今回のトラブルははるかに手前、初歩の初歩段階ですが、出来上がってから長い間、使われなかった「B系」炉の内部状態を確認しないで走り出してしまった点に、相変わらず思いこんだら冷静な判断が出来ない技術的未熟さが見えます。「国策」原子力開発の低レベルぶりは改まっていません。

 高速増殖炉「もんじゅ」も含めた核燃料サイクルは、福島原発事故をうけて推進すべきかどうか見直されることになっています。これから議論がされる最中、日本原燃が再処理工場の試運転を再開した点に独断専行の批判が出ていました。完成前に中止されたくない――その焦りが自分の首を絞める結果になったと言えるでしょう。

 【参照】インターネットで読み解く!「再処理工場」関連エントリー