第302回「米国の学資ローン返済地獄に近づく日本」

 日本では名前だけ奨学金と呼ばれる学資ローンの返済地獄ぶりが、だんだん米国に近づいてきています。朝日新聞の《奨学金1万人滞納 金融・信販会社に登録》は日本学生支援機構(旧日本育英会)が「2010年度末時点で123万1378人に総額1兆118億円を貸し出し、3カ月以上の滞納額は約2660億円に上る。回収強化のため、10年度から3カ月以上の滞納者の情報を信用情報機関に登録し始めた」と滞納の多さを報じました。

 米国の学資ローン規模は借りている額も人数も格段に大きく、ニューズウィーク日本版の《米経済を圧迫する学生ローン地獄》は「アメリカの学生ローンの残高がついに1兆ドルを超えた」「借り手の多くは利率や返済期限をきちんと確かめずにローンを組むため、卒業後の返済に苦労するはめに。ニューヨーク連邦準備銀行によれば、借り手の25%以上が返済期日に遅れている」と伝えています。

 平均の数字に疑義があったので原資料である「High Debt, Low Information:A Survey of Student Loan Borrowers」にあたると、借りている人は3700万人ですから、平均すると2万7000ドルの借金になります。日本の平均80万円に対して米国220万円くらいでしょう。社会人になっていきなり2百万超の借金があるのでは大変です。マイホームを夢見て「住宅購入の頭金を貯めるより毎月の返済で手一杯になっている」人がこれだけ多数いれば住宅市場にも響きます。

 日本でも「機構や大学から奨学金を受ける学生の割合も増えており、機構の調査で初めて5割を超えた」とされている点が目を引きます。不況による親の収入減少もあって借りることが当たり前になっているのです。それなのに若者の半数は非正規の雇用になっている現状では、就職しても返済していく余力に乏しくなっています。

 実態はさらに深刻と示唆するデータが公表されました。《雇用:10年春新卒者、半数以上就職できずまたは早期離職》(毎日新聞)が「推計によると、大学・専門学校卒では、大学院などへの進学を除いた77万6000人のうち、約7割の56万9000人が10年春に就職した。しかし、このうち19万9000人が3年以内に離職。卒業後、無職・アルバイトなどの人(14万人)と、同年春卒業予定で中退(6万7000人)を加えると、無職か安定した職に就いていないとみられる人は40万6000人に上り、全体の52%を占める」と報じていて、ローンを返さねばならない人の相当多くは不安定な経済状態にあると見られます。

 《「大学無償化」国連人権規約を協議へ 外務省が留保撤回》(朝日新聞)が伝える「大学や高専など高等教育の段階的無償化を求めた国際人権規約の条項について、30年余り続けてきた留保を撤回する方針を固めた。文部科学省などと協議して手続きを進める。授業料の減額や返還不要の奨学金の導入など、条項に沿った施策に努めることを国際社会に示す意味合いがある」が真剣に検討され、実効性がある政策になるべきです。