特集F1「事故調が責任問わぬ始末では信頼回復は難しい」

 国会事故調に続いて公表された福島原発事故の政府事故調最終報告を見て、責任の所在が明らかにならない始末の付け方では国民の原子力発電への信頼回復は難しいと感じました。第一に、公的な両事故調の最終報告を契機に為されるべき刑事処分の可能性が消えました。新原子力規制組織を立ち上げて次の段階に進める機運も、白黒をつけないために生まれた「灰色一色」では薄汚れてしまいます。責任者に刑事罰が当然の大事故ながら、せめて責任があった関係者は新体制から確実に外して欲しいと願うのが国民感情でしょう。しかし、両事故調の提言にはそのような配慮もありません。

 先日の特集F1「国会事故調(4)責任追及がし難い日本的ずさん」で「福島事故の責任を問うなら、まず直接の引き金になった事象を確定し、その行為の責任者や回避するための注意義務を負っていた人物を、現場から経営陣、規制官庁まで含めて特定します。その上で連帯すべき責任者を列挙します。焦点は最初に爆発した1号機」と指摘しました。電源喪失後の1号機安全装置「非常用復水器(IC)」について、国会事故調は地震による損傷説に立ちましたが、政府事故調は地震説を否定し知識が足りず運転できなかったとしています。

 中間報告で「福島第一原発で事態の対応に当たっていた関係者の供述によると、訓練、検査も含めてICの作動を長年にわたって経験した者は発電所内にはおらず、わずかにかつて作動したときの経験談が運転員間で口伝されるのみであったという。さらに、ICの機能、運転操作に関する教育訓練も一応は実施されていたとのことであるが、今回の一連の対処を見る限り、これらが効果的であったとは思われない」とされた部分です。

 最終報告では「他方、発電所対策本部及び本店対策本部は、当直からの報告・相談以外にも、ICが機能不全に陥ったことに気付く機会がしばしばあったのに、これに気付かず、ICが正常に作動しているという認識を変えなかった。かかる経緯を見る限り、当直のみならず、発電所対策本部ひいては本店対策本部に至るまで、ICの機能等が十分理解されていたとは思われず、このような現状は、原子力事業者として極めて不適切であった」と上層部まで無能を拡大するだけです。

 IC運転訓練を運転員に課さなかった責任者は誰か、命綱のICが動いていないことに気付くべき注意義務を負った責任者はいないのか、ICが動いていると誤認したとしても8時間で止まるのだから代替注水の準備が遅すぎないか――答えて欲しい疑問はことごとくやり過ごされます。最後の疑問については、マニュアルにない代替注水を担当する部門がなかなか決まらなかったとの情報がある程度で責任者は誰か書かれていません。

 最終報告で明確になった点に、福島第二原発で炉心溶融を免れた聞き取りとの比較があります。例えば3号機では「高圧注水系手動停止の際に代替手段をあらかじめ準備しなかったことにより、6時間以上にわたって原子炉注水が中断した。福島第二原発では、手順の細目について相違があるものの、基本的には、次なる代替手段が実際に機能するか否かを確認の上で、注水手段の切替えを行うという対応がとられていた」と適切な手順を踏めば良かったとしています。2号機についても同様です。同じ東電の福島第二側と比較しても、福島第一原発は「待ち」の態勢で有効な措置を講じておらず、炉心溶融を招いた不作為があまりに多いのです。

 【参照】「国会事故調は主因を津波に限らず、地震で損傷も」
   「原因は語らず懸命努力説明ばかり東電事故報告」
   「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」
   「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」
   「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」
   インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー