第317回「原発ゼロなのに核燃サイクル維持は思考停止の戯言」

 政府の新たなエネルギー・環境戦略原案の内容がメディアで一斉に伝えられています。20年以上先の2030年代に原発稼働ゼロを目指しながら核燃料サイクルを維持、「もんじゅ」も研究炉として動かす――とは「現状を固定して何も変えない」と同義です。文字面だけ見ても、原発ゼロとサイクル維持が並んでいる愚かしさに、原子力の素人政治家が原子力ムラ官僚に踊らされている様があまりに露骨です。こんな「朝三暮四」で福島原発事故の実態を見てしまった国民を騙すことは不可能でしょう。

 毎日新聞の《エネ戦略原案:政府「核燃サイクル維持」 原発ゼロも併記》は最初から切れ味が悪い表現ばかり。「2030年代の原発稼働ゼロを目指す方針を明記する一方、実現方法の見直し規定を盛り込んだ」「核燃料サイクル政策を巡っては、再処理事業を当面維持する方針を明示し、関連施設を抱える青森県などへの配慮を示す」と、各方面への「配慮」だらけだったと語っています。

 高速増殖炉「もんじゅ」(福井・敦賀)については「政策転換を図り、放射性廃棄物減量化を目指す研究炉としたうえで成果が確認されれば研究を終了する方針」ですが、高温液体ナトリウムを冷却材とするもんじゅは運転自体が恐怖なのです。福島原発事故のような想定外の事態が起きれば、軽水炉と違って最後は水を掛けて冷やす手段がとれません。さらに軽水炉は炉心溶融で核分裂反応が止まりますが、もんじゅの炉心溶融は核分裂反応を暴走させる可能性が高いのです。過酷事故を起こしてしまえば、福島原発周辺以上の惨状が関西一帯に生じます。

 昨年秋に書いた《「もんじゅ」と再処理工場の廃止に踏み出そう》で核燃料サイクル政策の見直し遅れを指摘し、「具体策検討を急がないと、判断しようにも出来ない状況に陥ります。民主党政権に官僚に指示して段取りをつける能力があるのか心配です」と危惧した通りに事態は動いています。過剰になっている大量のプルトニウム問題や国際的な調整、使用済み核燃料の最終処分問題など何も手を付けず、無手勝流で行く――字面を変えただけの現状維持路線です。

 【追補】政府は14日に新たなエネルギー・環境戦略をまとめました。2030年代の原発ゼロ目指す▼原発再稼働ありとし運転は40年▼核燃料サイクル維持▼再生可能エネルギーは30年代に3倍▼電力システム改革や地球温暖化対策は先送り――が骨子です。

 基本的に原発推進の日経新聞《「原発ゼロ」矛盾随所に 再稼働や核燃サイクル継続》からも批判が出ています。「衆院解散・総選挙もにらんだ急造の戦略は詰めの甘さが随所に目立つ。『原発稼働ゼロ』の時期や手法は明確でなく、再生可能エネルギーを2030年に10年の3倍に増やす目標も実現のめどは立たない。電気料金の上昇で家庭や企業に及ぶ負担増も不透明だ」

 そして、野田首相の発言として「あまりに確定的なことを決めるのはむしろ無責任な姿勢だ」と述べたと伝えています。首相には「戦略」の意味が理解できていません。動きがとれなくなっている隘路をどう切り開いていくかこそ、示すべきです。これでは現状固定の上に原発ゼロを乗っけただけであり、政策上の矛盾はますます深くなりました。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー