『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない [BM時評]

 1月中旬、中国広域で発生した重篤スモッグについて国内メディアの感度の低さが目立ちます。23日になってウォール・ストリート・ジャーナル日本版に出た「中国の大気汚染対策―焼け石に水」が最良では困ります。日本マスメディアの自分では何も考えない、政府行政の発表に依存する体質が、このような場面で露骨に現れています。起きている事象を冷静に観察すれば、根本的には打つ手がないほど環境対策を長期放置した超重度汚染であり、かつて日本が大気汚染を逆バネにして成長したほどの技術的蓄積が中国に無いのは明らかです。私のように「世界一になる夢を潰えさせたか中国の重篤スモッグ」と普通は書くべきなのです。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは採られた対策の無力さをこう指摘します。「長期にわたる猛烈なペースでの経済成長の結果としての同国の深刻な環境問題は今や、力強い経済発展の障害になる可能性があるとみられており、懸念の対象は大気や水質の汚染から化石燃料の消費増大にまで広がっている」「ここ数年、発電所と乗用車の汚染物質排出に目が向けられているが、同国の汚染問題は複雑で経済全体にまたがるものだ」「石炭の燃焼によって生じる二酸化硫黄や窒素酸化物など1次汚染物質が大気中で反応してできる2次汚染物質を減らすことに力を入れている。1次汚染物質の削減では若干の成功を収めたが、アナリストは、人体に有害なPMなど2次汚染物質の削減はまだ始まったばかりだとしている」

 大気汚染顕在化を受けた中国社会の反応として注目だったのは中国国営通信、新華社からの「中国、北京の大気汚染対応で新規則を発表へ」のエピソードです。「国内メディアは、政府当局者らが家庭でもオフィスでも高価な空気清浄設備を利用していることなどを報じ、大気汚染問題はこうした特権や格差拡大に対する国民の反発につながっている。このため、大気汚染問題は指導部にとって一段の関心事となっている」。国営、新華社だから痺れました。最近、言われている貧富格差以上に深刻化しました。言論の自由問題のように先送りは不可能です。

 もうひとつ、大気汚染問題が発言力が大きい北京周辺を中心に語られたいますが、実は日本で開発された大気微粒子発生拡散シミュレーションで見れば、広い中国内陸部から朝鮮半島、日本にかけて汚染の発生と拡散があり、反復されています。第338回「中国の最悪大気汚染は韓国や日本へ飛来する」をご覧下さい。ネットの閲覧規制が厳しい中国ですから見られないとは思いますが、もし、九州大で毎日、公開されている微粒子汚染の拡散予測が中国で見られるならば、北京や上海などの沿岸部は時々は北風が吹き抜けてクリーンになるのに、重慶などの内陸部はほぼ常時、汚染大気が渦巻いていて絶望的と判ります。この救いの無さを見せつけられたら内陸部を中心に暴動が起きるのではないかとさえ思えます。

 日本のマスメディアは中国の重篤汚染が日本にも及んで、しばしば環境基準を超える大気汚染をもたらしている現実をきちんと伝えるべきです。中国政府に国際的な迷惑ともの申せる状況です。その一方で、ヒューマニズムの観点からも中国で明かされない過酷な内陸汚染状況を中国国民に少しでも伝える手助けをするべきです。

 【参照】インターネットで読み解く!「中国」関連エントリー
     第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」
     第345回「中国で暴露、ぼろぼろの環境行政と水資源管理」
     第388回「PM2.5発がん性認定、お座なりの日中政府に痛撃」(2013/10/18)
     第401回「中国大気汚染の実態:二次合成と工場が2大源」(2014/01/07)
     『緊急措置効かぬ怪物スモッグが中国政府を打ちのめす』(2014/02/28)
     第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」 (2014/03/02)