第376回「汚染水流出に国が乗り出すも緊急対策は穴だらけ」

 福島原発事故による汚染水が海に流出している問題は東電に任せておけないと、政府は緊急対策と1〜2年をかける抜本対策を打ち出しました。この緊急対策ではほとんど何も変わらないだろうと検討すれば見て取れます。海洋放射能汚染防止を国際的に説明はどうするのでしょうか。マスメディア報道は抜本対策に目が向いていますが、1年以上も先の話に注目しないで現在起きている問題点を詰めるべきです。取材相手の設定する土俵に振り回されて、自分で問題は何か考えない愚かさは相変わらずです。  首相官邸の第31回原子力災害対策本部会議に出された経済産業省の資料です。対策ごとに設ける施設の図面があります。

 緊急対策は、地下のトレンチに溜まった高濃度汚染水を8月中旬から除去▼汚染エリアの地盤など改良と地下水の汲み上げ▼山側から降りてくる地下水を手前のバイパスラインで汲み上げて原発に近づけない――の3点です。最後の、サイト手前で地下水を汲み上げる策は魅力的ですが、大いに疑問有りです。

 経済産業省は毎日1000トンの地下水が原発サイトにやって来て、400トンが建屋地下の高濃度汚染水に流入、300トンが汚染土壌を通過して海へ、300トンが汚染がないまま海へと推定しました。地下水脈と原発の地下は完全に繋がっています。手前のバイパスラインで大量に汲み上げることは可能ながら、それをすれば地下水の水位が山側で下がり、サイト内から高濃度汚染水が逆流する事態が起き得ます。地下の汚染拡大を恐れるなら手探りで様子を見ながら加減するしかありません。

 1日400トンの建屋地下流入であっぷあっぷしている東電は汚染された海岸部で1日100トン程度の汚染地下水を汲み上げ、タンクに保管する対策を考えています。それが1日300トンにもなれば計画が破綻しますが、そもそも地下水を汲み上げれば、周囲の汚染されていない地下水が水位が低いところに集まってきます。山側での地下水ブロック量と関係するので量的に不詳ですが、どこかで汲み上げれば300トンという目安は動くはずで、300トン汲み上げたら安全と国際的に説明できる数字ではないでしょう。

 抜本対策にある原発を囲む陸側遮水壁と海岸を囲む海側遮水壁が完成すれば、地下水の流れが遮断され状況は一変します。巨額になり東電の資金力では難しいので、政府は来年度予算で補助金をつける意向です。完全な遮水壁を早く作るべきだと、原発に批判的なグループは事故直後から主張していました。今回の緊急対策だけで海洋流出が防げると自信を持って言うのは難しく、『東電任せは駄目と明白にした新たな大量汚染水』で期待した強力な司令塔には程遠く見えます。2年半近く構内の放射能汚染マップすら完備しなかった東電に任せてきたツケは大きくなりそうです。

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