第385回「北京大気汚染に真正面から向き合っていない中国」

 北京でまたも最悪の大気汚染が発生。実はニュースにされなかっただけで重篤なスモッグは夏場も頻発していました。5年で改善との計画は打ち出されましたが、事態の深刻さにきちんと向き合っていないと指摘します。端的な例を挙げると、人民日報電子版で北京の天気欄は「今日は天高く空気爽快」といった調子の記事ばかりです。よく見るとところどころ数日に渡り記事がありません。その期間こそスモッグが発生していたのです。スモッグは日本の研究チームによれば的確に予測できるのですから、天気欄記事は市民にスモッグ対策するよう注意を喚起する役割を果たすべきなのに、文字通り臭いものに蓋をして平然としています。北京の米国大使館が測定した今回のスモッグデータを引用しておきます。  9月半ばの人民網日本語版《国務院:全国の大気汚染を5年で改善》によれば、北京を中心にした河北地域のPM2.5濃度を25%引き下げる計画が公表されました。《民生分野の「石炭からガスへ」、排ガス基準を満たさない車や旧式車の排除などへの政策支援を強化》が柱になっており、北京からは旧式設備の中小工場が移転させられます。しかし、《行動計画は経済・社会発展と環境汚染の改善を促進する効果を果たす。経済的にはGDP成長を2兆3900億元押し上げ、うち大気汚染対策関連の環境保護産業の生産額は1兆元以上増加する見通しだ》と経済成長に繋げているのに呆れました。

 重篤スモッグが今年なぜ顕在化したのか、《中国各都市の人口爆発、地域別の格差縮小が解決策か》を見て腑に落ちました。《北京市統計局が17日に発表したデータによると、2005年に1538万人だった北京市の定住者は12年に2069万3千人に達した。わずか7年間で530万人以上増加したことになる》

 これだけの人口が急激に増えれば環境負荷増大は絶大です。経済成長のペースはほとんど落とすつもりはないとされていますから、北京の人口増加はこの調子で続くのでしょう。7年で34%増加の実績なら、今後5年で25%前後でしょうか。PM2.5濃度を5年で25%引き下げる計画の背後で25%の人口増加があるなんて、計画目標が達成されるとは到底思えません。中国政府は人間を含めた環境・生態系のダイナミズムをナメていると申し上げておきます。この夏、第373回「中国大気汚染が高濃度で関東から西日本を覆う」で汚染大気の越境ぶりを伝えました。改善は見込めそうにありません。

 【参照】「インターネットで読み解く!」
     第374回「対岸の火事でないPM2.5、抜本的な浄化支援が必要」
     『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない
     第343回「中国大気汚染の絶望的な排出源構成と規制遅れ」
     第345回「中国で暴露、ぼろぼろの環境行政と水資源管理」