第439回「中国の大気汚染、改善遅く改革に絶望的閉鎖性」

 中国の大気汚染、微粒子PM2.5による重篤スモッグの改善は遅々として進まないと判明。環境保護法を改定し、門前払いだった裁判で環境訴訟を取り上げる準備はしたものの特定NPOしか訴えられぬ閉鎖的改革です。日本と同じ無過失責任の法体系をテコにして環境汚染源を封じていくには、広く国民の訴えを生かすべきなのです。ところが、民衆に自発的な行動力を発揮させるのは共産党指導部には怖くて仕方ないと見えます。官製のお仕着せ訴訟でぼつぼつ進むのでは済まないほど、空気も水も土地も汚染は深刻かつ広範囲です。

 時事通信の《大気汚染なお高水準=上半期、オゾンが増加―中国》が22日付の中国メディアを引用して報じました。《環境保護省は今年上半期の大気中のPM2.5の平均値について、北京市と周辺地域では1立方メートル当たり100マイクログラムだったことを明らかにした。2013年通年に比べ6マイクログラム改善したが、中国の環境基準の3倍近い水準にある。一方、窒素酸化物などの光化学反応で生成されるオゾンは、前年同期比7.2%増加。全国でも上昇が見られ、PM2.5などと並ぶ主要汚染物質となっている》

 74主要都市で環境基準を満たすのは3都市しかなく、北京、天津両市や河北省では年間6割以上が重篤スモッグに覆われる惨状は変わっていないのです。夏場の今ごろは比較的軽い汚染であるものの、北京の米国大使館が出す観測指標はしばしばPM2.5が100マイクログラムを超えている「AQI150超」です。

 AFPの《中国、法改正や特別法定設置で環境対策 実施は困難伴うとアナリスト》は指し示す方向は正しいが、実現性を疑います。《3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の閉幕にあたって行われた記者会見で、李克強首相は、「環境汚染問題に宣戦布告する」と表明。小規模の石炭火力発電施設5万か所を閉鎖することや、ガス排出量の多い古い車600万台を廃車にすると明言した。政府は4月には環境保護法を25年ぶりに改正。施行は2015年で、違反行為への罰則が強化されるほか、一部の非営利団体に環境関連の訴訟を起こすことが認められる。さらに、中国の最高人民法院(最高裁)は今月3日、環境問題に関連した訴訟を審理するための特別法廷を設置したと発表した》

 特別法廷設置を伝えた《中国最高裁、汚染に特化した特別法廷を設置》で過去の取り組み不足にこんな弁明があります。《最高人民法院の広報担当者によると新たに設置された特別法廷は、大気汚染、水質汚染、土壌汚染に関連する訴訟の他、鉱物資源や森林河川などの自然資源に関連する訴訟も取り扱う。各地の裁判所にも同様の特別法廷が設置されるという。「受理、審理、決定の実行には確かに多少問題があった」と、最高人民法院に設置された特別法廷裁判長、鄭学林氏は記者団に語った。「裁判所はいくつかの審理に積極的だったが、妨害が入り消極的になったり諦めたりせざるを得なかった」》

 インタビューした記者団が事情を知らないと思ってか、笑わせてはいけません。昨年の第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」でこう指摘しました。《日本の科学研究費で中国人研究者が実施した研究「中国環境司法の現状に関する考察〜裁判文書を中心に〜」が2006年全国環境統計公報から推定した、環境公害紛争に対する行政と司法の圧殺ぶりは凄まじ過ぎます。環境紛争数61万6122件に対して行政手続受付済の事案数9万1616件で、司法手続受付済の事案数は何と「2418件」にすぎません。255分の1です》  第346回で掲げたマップにある、200カ所以上と報道されている『がん村(癌症村)』の被害者も泣き寝入りしてきました。被害者が堂々と訴えるどころか、差別や圧迫にあい肩身が狭い思いをする――日本で水俣病が知られ始めた段階に見られた、水俣病患者の切ない惨状が中国全土にあると申し上げておきます。

 「一部の非営利団体に環境関連の訴訟を起こすことが認められる」と言いますが、その線引は不明朗です。対象のNPOを出来るだけ絞ろうとする動きも伝えられます。少なくとも年間で何万件、あるいは何十万件もあるかも知れぬ環境訴訟を受け止められる司法の態勢が組まれるとは全く見えません。この点が絶望的なのです。

 【参照】第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」
     第411回「越境PM2.5スモッグ、広域で注意喚起レベル85超」
     「『中国は終わった』とメディアはなぜ言わない」