第473回「閉鎖されて判ったソニー音楽配信サイトの功罪」

 月額980円で聴き放題だったソニー音楽配信サイト「ミュージックアンリミテッド」が3月30日で閉鎖されました。2年間どっぷり利用だったので喪失への対策をせざるを得ず、その結果として意外な発見もしました。類似の配信サイトは存在しますが、2500万曲という規模は比べものになりません。ブログで「気に入ったレアな楽曲をレンタルCD屋などどこにも見つけられないだろう」と嘆いている方がいらっしゃいます。一度、聴いて気に入ってしまった以上、もう永遠に聞けなくなると思うと辛いのです。

 1月に閉鎖が公表された際、第462回「PCオーディオ生活を困惑させる日本市場障壁」で《今回の「背信」は痛いと申し上げます》と書きました。同じ思いを《Sony Music Unlimitedが終了》が実際の閉鎖経験を通してこう書いています。

 《短い期間ではあったものの、いかに音楽環境を同サービスに依存していたかがわかります。その点については素直にありがとう、と言いたいです。まぎれもなく私の生活の一部を形成してました。それが、あっけなく失われるとは》《今、他のネットサービスの終了ではちょっと味わったことのない喪失感を感じています。正直、自分でもそこまで影響はないと思っていましたし、他に利用している定額制サービス(huluやdマガジン)が終了しても、おそらくここまでの喪失感は感じないんじゃないかと思います。やっぱり音楽ってすごいわ》《ソニーさん、いろいろ事情はあったんろうけど、やっぱりこれ、やっちゃいけないことだったんじゃないかなぁ、と思うよ。音楽をライフスタイルに組み込んで、その質を向上させよう、っていうのはソニーさんが永らくテーマとして追求してきたことなんじゃないの?》  閉鎖公表以降、レンタルで借りたCDは100枚以上、買ったのは廉価なボックス物を中心に50枚以上になりました。こうなったのは2月に上の写真、独ゼンハイザーの最高級ヘッドフォン「HD800」を買い、音楽配信サイトが提供できる「音質」にも目を開かされたからです。HD800の再生では音が立ち上がるのも消えるのも極めて俊敏で、別の音に隠されたり着色されたりしなくなります。HD800で聴くと配信サイトそのままでも、これまで聞けなかった音が色々と耳に入って驚かされます。喪失対策として本物のCDを入手して聴くと、新発見がさらに増えるのです。配信サイト提供のビットレートは320kbps程度ですが、CDは600kbps以上、1000kbps前後が当たり前です。この差は知っておくべきでした。

 細かな音に耳を傾けることが多いクラッシクやジャズではなく、エレキサウンドのベンチャーズで最初に認識しました。細かなテクニックや音作りで知られているベンチャーズCDを軽い気持ちで借りてきて配信サイトと比べました。そこで、気に入った音楽ならばオリジナルCDを持つか、借りて可逆圧縮でコピーせざるを得ないと感じました。気に入っていればこそ見過ごせない「差」が存在していると言えます。

 とは言え配信サイトの膨大多彩な曲目は魅力です。聴いたことがないCDを買うには勇気が必要です。閉鎖前日の29日から気になっていたのに聞いていない楽曲を重点的に聞きました。閉鎖数時間前に聴いたポリーニとアバドのバルトーク・ピアノ協奏曲は本当に天才同士の火花が散っている演奏で、直ちに注文しました。今度のドタバタが無ければ一生、聞き逃していたと思うともったいなさ過ぎる、あまりに秀逸な音楽です。

 こういう事情ですから、もしミュージックアンリミテッドが復活しても、これまでのような依存にはならないでしょう。膨大な音楽ソースへの玄関口として使うことになるでしょう。それにしても、何気なく流していたジャンル別の音楽チャンネルで貴重な楽曲との出会いを何度もしました。もともと歌謡曲から民族音楽まで幅広かった聞く音楽の範囲がもっともっと広がりました。ユパンキなどラテン音楽にも惹かれるようになっていたのですが、残念なことにレアな音源が多くて自前での入手は不可能です。