第480回「瓦解していく科学技術立国、博士進学者は激減」

 知的な営みを象徴する論文数が減少し、人口当たりで見れば東欧の小国にも抜かれています。研究者の供給源、博士課程への進学者が激減しているのですから、国是のはずの科学技術立国は瓦解と申し上げて良いでしょう。ポスドク1万人計画に乗った結果、定職がないまま30代後半から40代にもなった研究者からは悲痛な声があがっています。この事態にも政府は異常を感じ取れないと見えます。国立大学運営費交付金の重点配分が2016年から強化されると、中小の大学は人件費が賄えなくなって定員を減らさざるを得なくなります。退職者が出ても新規採用の見送りで対処するでしょうから研究者のお先真っ暗感は深まるばかりです。  文部科学省の学校基本調査から大学院博士課程への入学者数を拾いました。2003年には18232人もいた入学者が2014年には15418人にも減りました。しかし、実は社会人からの入学者が急増しているために嵩上げされています。社会人を除いた進学者のグラフも作成すると、2003年の14280人が2014年は9608人まで減りました。何と3分の2です。人口当たりの博士号取得者は日本は欧米の半分以下ですが、今後さらに差が開くでしょう。

 博士号を取得したのに展望が無いのですからやむを得ません。生物科学学会連合のポスドク問題検討委員会が4月に《<重要なお願い>生物科学学会連合より行政(国、地方)、企業、大学・研究機関、および研究者コミュニティーに対するお願い》を出しました。そこから「図3:大学院博士課程修了者数と大学教員(25〜35才)の採用数の推移」を引用します。  1991年には博士課程修了者数6201人に対して大学教員(25〜35才)採用数が5428人とほぼ見合っていたのに、90年代に進んだ「大学院重点化」で博士課程修了者数が急増しました。2013年には修了者16446人に対して、大学教員採用数は4982人しかありません。溢れている多くはポスドクになり、2013年段階で35才以上のシニアポスドクが37%を占めるほど高齢化しています。40才以上は16%です。《今、次世代を担う若手研究者が窮地に陥っています。ポスドク(任期付博士研究員)の雇用促進と研究者育成に是非ご協力ください》と訴える所以です。

 ポスドク1万人計画から「卒業生」が出始めた2001年に読者共作2「ポスドク1万人計画と科学技術立国」を書いています。日本のポスドクの仕組みが将来への展望を欠いており、大学の封建的な運営にも問題があると指摘しました。顧みて当時の心配がほとんど解消されていません。

 2011年閣議決定の第4期科学技術基本計画が使う現実と乖離した言葉の虚しさ、空々しさを見てください。《優秀な学生が大学院博士課程に進学するよう促すためには、大学院における経済支援に加え、大学院修了後、大学のみならず産業界、地域社会において、専門能力を活かせる多様なキャリアパスを確保する必要がある。このため、国として、博士課程の学生に対する経済支援、学生や修了者等に対するキャリア開発支援等を大幅に強化する》

 シニアポスドク問題がここまで深刻になると打つ手はあるのか、もう手遅れではないかと思えます。政府・文科省は10年、20年先を考えるスタンスを持たず、その場凌ぎを繰り返していると断じて良いでしょう。