第525回「小学生にプログラミング必修、失敗必至の愚政策」

 安倍首相は小学生から「プログラミング教育を必修化」と産業競争力会議で表明しました。教える人材を手当出来ない情勢から、街のパソコン教室以下とも言われる高校の必修科目「情報」の失敗を繰り返すのは必至です。「情報」はワードやエクセルなどを教えるだけの存在に成り下がったり、厄介者扱いで受験向け科目に振り替えられたりしています。2003年の必修化時にはそれなりの理想は掲げられていたのですが、情報専門の人材が高校に入ることはほとんど無く、教える先生の大半は数学などの教諭が夏休み3週間の講習会で免許取得認定を受けたのでした。今回も小中学校で同じことが起きると申し上げてはばからないのは、子どもの数が減っていく時期にぴたりと合致しているからです。  18歳人口の推移グラフです。2003年の「情報」必修化はハイティーン人口が急速に減っていくタイミングで実施されました。高校側には新教科導入に即応する新しい人材を雇う余力など無かったのです。現在に至るまでも「情報」が専門の教員が採用される例はほとんどなく、他の教科の免許と併せ持つ先生ばかりです。そして、現在の中学3年生がグラフでどこに位置しているか、見てください。これから人口が減っていく入り口に立っていると知れます。

 安倍首相の表明を官邸19日の《産業競争力会議》から収録しましょう。《日本には、ITやロボットに慣れ親しんだ若い世代がいます。第四次産業革命の大波は、若者に『社会を変え、世界で活躍する』チャンスを与えるものです》《日本の若者には、第四次産業革命の時代を生き抜き、主導していってほしい。このため、初等中等教育からプログラミング教育を必修化します。一人一人の習熟度に合わせて学習を支援できるようITを徹底活用します》

 昨年末の第510回「米が小学校にコンピュータ科学導入は女子に効く」で米国がプログラミングを含むコンピュータ科学を教えるべく動き出したと伝えました。労働市場でプログラマーの需要に供給が追いつかない現状が背景にあります。こうした欧米の動きに刺激されたのでしょうが、日本と違って人口が増えていく米国なら子どもに教える人材を新規に雇うことも可能でしょうし、IT人材の質と量が日本に優っているのは明らかです。

 子どもが減っていく中で、現在でも学校教員の数は財務省の圧縮要請に文部科学省が激しく抵抗する状況です。安倍首相が言う十分なケアが出来るスタッフが小中学校に揃う可能性は限りなく小さいと思われます。

 日経の2014年《高校の「情報」科目、必修は名ばかり 簡単パソコン操作だけ》が《情報処理学会は8月、教員向けの講習を初めて開催し、指導力の改善に乗り出した》と伝えていますが、まさに焼け石に水としか言いようがありません。現状がまとめられているので紹介します。

 プログラミングは思いついたアイデアを数学上の手順に置き換えてコンピュータの処理として実現します。うまく作れればとても面白く、40年前に大学で希少だったディスク・オペレーティング・システム付きミニコンで対戦型麻雀ゲームを作って大学祭で遊んでもらった経験があります。隘路を突破していく発見の喜びを教えられれば子どもに刺激的な経験になるでしょうが、決まり切ったプログラミング手順を教えるだけの授業に止まるなら苦痛そのものです。長くウオッチしてきた立場からは人材・教材ともにかなり悲観的です。性急にプログラミング教育に走るより、2011年『日本人の4割はパソコン無縁:欧米と大きく乖離』で示したデジタル・ディバイド層を何とかする問題意識を持って欲しいところです。