第609回「ダム崩壊の原因究明、韓国がズサンで被災者放置」

 昨年7月、ラオスで起きたダム崩壊の原因を調べた政府調査委は「不可抗力と言えず、ダムの建設地盤が不適切」と結論。これを拒否する施工の韓国SK建設はズサンな対応を続け、被災者が救済されない惨状が続きます。日本語で読めるニュースは中央日報の29日付《「ラオス補助ダム崩壊、防げた」という発表に韓国建設会社「同意できない」》ですが、読んでも意味不明の内容です。3月20日にラオスのバウントンチットマン副首相が地盤不良と言明したrfa.orgの記事を見ると、米スタンフォード大研究者の分析に依拠しているので、分析を詳報したASIA TIMESの《Collapsed Lao dam ‘was built on a sinkhole’》から見ましょう。  スタンフォード大のリチャード・ミーハン氏はラオスの隣国タイでダムを設計・施工した経験があり、今回のダム崩壊について解析を発表しています。上の模式図はミーハン氏が描いた図で、もとの図は断面図と平面図の境目が無かったので見やすいように水面上部の補助線を入れました。

 崩壊したダムはダム湖の貯水面積を稼ぐための補助ダムであり、メインダムにほど近い谷間に700メートルにわたって架けられました。ダムの西端部が設けられた場所が沈み込む穴のような地形であるとミーハン氏は主張します。この場所には古い盆地があり、雨期になると深さ1-4メートルの水を湛えていたと言います。ダムは現地の赤土を盛って表面をアスファルトで覆っただけのアースフィルダムであり、盛土は吸水性に富んでいます。ダムの貯水が進むとダム湖の底は20メートルもの水圧に晒され旧盆地の底から水が漏れる経路が出来て大量洩れにつながり、やがてダムの基盤部も浸食して崩壊に至ったとの主張です。

 ラオス副首相は「この地質が事前に分かっていればダムの建設を許可しなかっただろう」と言っています。  決壊した補助ダムの代わりに「1キロ離れた谷に長さ400メートルのコンクリートダムを建設中」と伝えられていますから、上の地図のグリーンの線あたりになるでしょう。

 しかし、施工業者のSK建設は《「調査結果は事故前後に実施した精密地盤調査結果と一致しないなど科学的・工学的根拠が欠如している」としながら「経験的推論に過ぎない調査結果に同意することはできない」》と反発し、受け入れようとしません。調査委の認定では「ダムの水位は最大貯水レベルよりも十分低かったのに崩壊した」点も論拠とされ、これは下の、崩壊直前に満水になっている現場写真と明らかに矛盾します。  どうやら調査委はメインダムでの水位を基準に議論しているようです。第594回「決壊ダム高さ、コスト削減で6.4メートルもカット」で伝えたように、基本設計を大幅に変更して低い補助ダムを建設した事実をSK建設はきちんと説明しなかったのでしょうか。6.4メートルも低いダムだったのでSK建設が言うように大雨で氾濫、越流が起きた可能性もあるのですが、地域の降雨特性なども勘案して考えられた基本設計に手を付けたのが後ろめたいのでしょうか。この件に限らず韓国が関わると事件事故の細部を詰め切っていないズサンがよく発生して困ります。

 《SK建設は「深層的かつ追加的な検証を通じて、すべての専門家が同意できる結果が導き出されるように最善の努力を尽くす」とし「当社は今回の結果発表とは関係なく、過去10カ月間行ってきたように、被害の復旧と補償のために最大限の努力を尽くす」と付け加えた》そうですが、いつまでも責任が確定しないズサンさのために被災者への補償や日常ケアは良好とは言えません。


 ◇被災者救済の現状は落第点

 ASEAN Todayの3月4日付《Are recovery efforts for the Lao dam collapse failing local communities?》は人的被害を政府による数字として「死者40人、行方不明31人、7000人以上が立ち退き」としていますが、死者行方不明は800人に上るとする民間団体もあります。

 《先月、ラオス政府の特別任務全国救済委員会は、ダム開発事業者に、当局が正式に死亡または行方不明を宣言した71人のそれぞれの家族に1万ドルを支払うように命じました。金額は昨年8月に最初に提供された 176米ドルよりはるかに優れていますが、これでもまだ不十分です》

 この他に事業者側から提供されたのは仮設住宅用に80万ドル、救援活動の資金として1000万ドル、これと別にSK建設から1000万ドルの寄付があったと言います。こうした資金から洪水で立ち退いた避難民には月に20キロのコメと11.66米ドル、さらに1日当たり0.58米ドル相当の食料が与えられるのですが、食料供給は足りていません。

 復興に向けて大きな問題があります。安全上の懸念から生存者は元の低地から乾燥した丘の中腹に移動することになり、これまでのように稲作で生きていけません。タピオカの原料であるキャッサバ芋を作ることになり、換金性は良いのですが市況の変動に踊らされて地域社会の生活が様変わりしてしまいそうです。何より食料自給が出来ません。

 金額面だけ見ても十分な補償とはとても言えないと思いますし、本格的に治水工事をしてでも稲作を続ける基盤は整備すべきでしょう。