時評「プーチン狂気の侵攻意図を明かす露国営通信の勝利予定記事」

 
 ウクライナはロシアにたやすく降伏することなく抵抗を続け、悲惨な市街戦に入ろうとしています。開戦数日でウクライナが降伏するとの前提でロシア国営RIAノーボスチ通信が勝利の予定記事を準備し、誤って公開してしまいました。何のための戦争か、プーチンの頭の中が見えるとしてネット界隈で評判です。関連するウェブ分析記事と合わせて考察します。

 《ブーバチカの呟き》「ロシアは歴史的完全性を回復する」が全文を訳してくれていますから、長いですが是非ご覧ください。

 目的は大ロシア帝国の復活でした。《ロシアはロシア世界、ロシア国民、すなわち大ロシア人(注=ロシア)、白ロシア人(注=ベラルーシ)および小ロシア人(注=ウクライナ)を集結させ、歴史的完全性を回復している。もし我々がこれを放棄し、一時的な分離が固定化するのを許してしまったら、ロシアの土地の崩壊を許してしまったことによって祖先の記憶を裏切るのみならず、子孫からも呪われるだろう》との使命感が突き動かしていたのです。

 そして《多極世界はやっと現実のものとなった。ウクライナでの作戦によって、西側以外は誰も団結しないだろう。なぜなら、西側以外の世界は、これはロシアと西側の対立であり、これは大西洋ブロックの地政学的拡大に対する回答であり、ロシアの歴史的空間と世界における地位の回復であることをはっきりと分かっているからだ》と、既存の世界秩序の大転換をうたっています。

 現実は、ドイツの対ロシア弱腰などでばらばらだった欧州をプーチンの一撃が一枚岩にして永世中立のスウェーデンやフィンランドまでそこに加わろうとし、国連総会はロシア非難一色に染まってしまいました。

 もうひとつ、文春オンラインの《「勝てるようにやっているとは思えない」専門家も戸惑うウクライナ侵攻…プーチンは“狂気の独裁者”になったのか:防衛研究所・山添博史氏インタビュー》 も関連して興味深い指摘です。

 《そして三つ目の可能性は、実は、今朝思いついたばかりの仮説です。そもそも「非合理な目的」と「合理的な目的」の両方がプーチンの中にあって、それは一緒に達成できると考えていた。でも、どこかの時点で、彼の中では非合理な目的の方が、合理的な目的を凌駕してしまったという可能性です》

 《ロシアの安全保障の世界と、それに関するプーチンの言い分はまだ分かるんです。でも、それを蹴って、なんとしてもウクライナを服属させてロシア帝国を作る、という方を優先してしまった。本当は、プーチンはどちらもやりたかったはずなのに、混乱してしまって、判断ミスも作戦ミスもしてしまった。その結果、引き下がれない感情の世界だけが残っている、という風にも考えられるなと》

 国営通信の勝利予定記事と合わせて考えれば、プーチンの頭で起きた考え方の推移が見えるようで非常に興味深いと思います。しかし、力づくで民主的に選ばれたウクライナ政権を倒し服従させても、民主的な選挙を一回すれば元に戻ります。いまだに力の闇が支配するロシアとは違う世界にウクライナは移ってしまったと気付かないのでしょうか。さらに一線のロシア兵にとって納得できる聖なる戦争の理由になるのでしょうか。