第684回「中華ヘッドフォンに習い重低音増強で臨場感」

【2/20追補】《レコード時代の名演奏を現代的に蘇らせて堪能》
 昨年秋に中華ヘッドフォンFIIO(フィーオ)《FT3》を手に入れ、その重低音過剰がレコード時代の名演奏の迫力不足を補い現代的に蘇生させる経験をしました。それなら音楽再生ソフトのイコライザーで重低音を増強して同じ効果を得られるか――思った通り実験が成功しました。お金が掛かる装置では一般性が無いので、5万円程度で買えるソニーのスマホ《Xperia 10 III SO-52B》に手持ちのイヤフォン各種で試しました。音楽再生ソフトは無料で使えるフリーソフト「foobar2000」で、パソコンに蓄えたクラッシクやポップス、ジャズの音楽をスマホにコピーし、イコライザー重低音増強の有無でどう違うか試しました。掲げるのはイコライザーの増強曲線と「ON/OFF」スイッチです。
 かつての名録音も重低音不足だった

 10月の第679回「中華ヘッドフォン、古い名演が見違える迫力に」、続く11月の第681回「中華ヘッドフォンが発掘、レコード録音の真実」でレコード時代の録音には力強い低音を自粛せざるを得ない大きな限界があると分かりました。実はこの十数年来、ベルリン・フィルの「デジタル・コンサート・ホール」によるネット配信が音楽ライフの大きな部分を占めるようになっています。その優秀なオーケストラ録音と比べると、かつての名録音も「箱庭的」と感じる経験をしてきました。

 例えばカルロス・クライバー指揮のベートーヴェン交響曲第五・第七番、イシュトヴァン・ケルテス指揮のドヴォルザーク交響曲「新世界」などです。「デジタル・コンサート・ホール」に比べると大編成オーケストラがコンサートホールで鳴っている臨場感が薄いのです。FIIO《FT3》で試聴すると明らかに改善されました。ティンパニーの強打が「ダダダダダーン」と聞こえるのが「ドドドドドーン」と変わり、コントラバスの低音弦強奏が床をなめるように重心が下がります。ホール全体がドドーンと鳴ります。

 迫力不足で等閑視されてきたワルターなどの名演奏だけでなく、80年代以前のレコード時代の録音は全て重低音増強すべきだと考えています。

 パソコンにつないだ強力な装置でFIIO《FT3》が活躍するのは分かっているので、今回は一般的なスマホ、比較的手に入りやすいイヤフォンでの実験です。写真左から2万円くらいのFIIO(フィーオ)《FH3》、1万円くらいのゼンハイザー《IE40 PRO》、それに20年以上前に3000円程度だった、懐かしのゼンハイザー《MX500》です。

 最初に掲げた増強曲線はゼンハイザー《IE40 PRO》が効果を発揮するのを確認して設定しました。この機種は1万円前後ではスタンダードな特性で他の多くと共通していると見ています。低音が強くはなく穏やかな音色バランスです。重低音増強するとクライバーやケルテスのウイーンフィル指揮でホールが鳴る感じが十分に出ます。第679回「中華ヘッドフォン、古い名演が見違える迫力に」で指摘した、ワルターとコロンビア交響楽団のマーラーの交響曲「巨人」、リヒテルとワルシャワ・フィルのラフマニノフのピアノ協奏曲第2番の現代的な蘇生もこなしてくれます。

 ゼンハイザー《MX500》は現役時分は特に愛用したので大切に保存してありました。古い製品で高音も低音も音域は狭いのですが、この実験では使えました。ワルターのベートーヴェン交響曲第五や第九など十分に鳴ります。流石にポリーニとアバドにシカゴ響の名盤「バルトーク ピアノ協奏曲集」になると低音域の分解能がもっと欲しい感じです。それでも重低音増強を外してしまうと高音域だけが目立つつまらない感じになるので、増強効果はあったのです。現在の数千円クラスのイヤフォンでも同様でしょう。

 もうひとつのFIIO《FH3》は第679回「中華ヘッドフォン、古い名演が見違える迫力に」の【追加の発見】で紹介しているようにもともと重低音が出ている機種です。低音の分解能も優れ、「バルトーク ピアノ協奏曲集」でも強化された重低音を一音ずつ分解して聴かせます。しかし、今回の設定は低音が出すぎの感じがしました。もっとも、「ダンシングクイーン」のアバやマイルスデイビスなど50年代ジャズは重低音をこれくらい大増強した方が良い感じでした。

 【2/20追補:Facebookでの解説】

《レコード時代の名演奏を現代的に蘇らせて堪能》

 昔の音楽CDを持っている方が多いと思います。CDを聴いて昔の音楽録音は古めかしくて迫力に欠けると思われている方に、レコード時代の名演奏を現代的に蘇らせて堪能する方法が見つかったので是非とも試していただきたいと思います。写真に掲げているように重低音領域だけを大幅増強して再生するのです。アナログレコードは針でトレースする溝が必要であり、大きな低音を入れると溝の振幅が大きくなりすぎました。そのために200ヘルツ以下の重低音を大幅に自粛して溝に刻んでいたのです。CD時代以前の演奏で迫力不足の原因でした。 200ヘルツ以下というのはバイオリンの最低音以下であり、普通の低音増強装置はもっと高い音から効いてしまって音楽を変えてしまいます。

 第684回「中華ヘッドフォンに習い重低音増強で臨場感」ではスマホのフリーソフト「foobar2000」で重低音増強する方法をとっています。スマホに音楽が入っている方はお手持ちの再生ソフトのイコライザーで試してもらうか、「foobar2000」を入れてください。「foobar2000」はパソコンでも使えます。クラシック音楽のほかにイージーリスニングのオーケストラ、ジャズやロック、ラテン、ダンス系等々で生き返ったような音楽が聴けます。