第42回「読者アンケート特集と安保再論」

 10ヵ月で連載40回の区切りに読者アンケートを1週間実施して、60人の方から回答をいただきました。このコラムの連載を続ける上で、とても参考になるデータが得られ、読者との双方向交流を本格的に試みるチャンスができたと思います。今回は通常のコラムから離れて、アンケートで得られた結果を皆さんに公開すると同時に、私からのコメントと、今後の方向を示す試行をしてみます。

◆お気に入り

 最初に40回のうちで、読者が挙げたお気に入りの回について、以下に集計結果を掲げます。複数回答ですから、分母を60として割り算すると、最高のものが36%、最低のものが5%の名あげ率になっています。

 昨年末から年明けにかけて、いろいろなところ、例えば『週刊アスキー』のインタビュー「岩戸佐智夫のパソコンなんていらない」や、主要な定期更新Webの更新内容を一覧できて便利な情報サイト「ZINE-CLIP」などで紹介されたため、新しい読者が増えたようです。最近数回の支持が厚めなのは、そのためだと思います。さらに、重めなテーマに名あげが多いのも印象的です。おそらく、安全保障というテーマの回にアンケートをした影響でしょう。編集部から、硬軟のテーマを取り混ぜて、同じような話題が重ならないようにして、と依頼されています。もともと生活やスポーツとかの科学が好きなので、軟らかめな話を意図的に入れています。どうも、そうした回の支持が低めです。今回のアンケートに回答された方は、シリアス好みが多いとみました。

 各種の要因を勘案して、何が支持される要素か考えると、やはり、その回の内容に盛られたオリジナリティの高さのように感じます。上位をご覧になって下さい。

◆求められているテーマ

 一方的に情報を送り続けること10ヵ月になり、読者ニーズとのずれが生じていないか、チェックするためにも、取り上げ希望テーマを書いていただきました。皆さんの表現は様々ですが、まとめられるものを集約すると、環境問題が一番多く、ついで教育問題、政治家や行政の腐敗、国の財政・年金問題、インターネット、エネルギー問題・原子力発電の収支、地球温暖化、金融ビッグバン、宇宙開発といったところが、複数の方の希望がある項目です。環境問題は昨秋、集中的に取り上げていますが、実践的なことも含めてさらにの希望です。タイムリーにとの要望もありました。こういった項目は私の目が届く範囲が多く、書くきっかけをつかんだら早めに取り上げましょう。

 インターネット関連が多い一方で「製造業を中心とする業界情報を。コンピュータ、インターネット、PCネタはもうたくさん!!」(40代、自由業)という声もいただきました。実際のところ、コンピュータ技術だけが技術ではありません。各種のメディアを通じて技術について書かれる機会は少ないようですし、地味かもしれませんが、ハードウェア関係の話も追いましょう。「癌などの病気の発生原因、発生件数の遷移、また予防法、治療法についての最近の研究結果についてなど」(30代、専門・技術職)も、個別の病気シリーズを前々から考えています。「芸術(美術、音楽等)と学校教育の関わり方 メディアの信用性――一般読者はどこまで報道を信頼できるのか?」(30代、専門・技術職)と、メディアに携わっている者として重いテーマもいただきました。

 知的所有権、公共事業、生命保険、中間管理職、中途採用時の年齢制限、世代論、選挙制度・政党、歴史教科書問題、ドイツと日本の比較、国防体制、先物取引、電子マネー、衛星通信、モバイル、パソコンユーザーの変化、バーチャルリアリティー、スポーツとお金など、テーマはいろいろ挙がりました。私の守備範囲に全てが入るわけではありませんが、自分の勉強も兼ねて試みることにしましょう。

◆コメントへコメント

 コラム全般を支持していただくコメントを多数いただきました。ありがとうございます。さらに、これからの方向について具体的な意見がありました。「話題に関連するサイトの紹介によりとても参考になっているが、たとえば読者からの意見・質問やサイト紹介をフォローしていくことはできないだろうか? 現状のままでは、このコラム、なくてもいいのでは、という気もしているのですが」(30代、専門・技術職)。もともとパソコン通信で会議室を運営することに慣れている私は、このコラムを始めるとき、ホームページ上で並行して討論の場を設けられないか、考えていました。しかし、実際に始めてみると、1回ごとにかなり手間が掛かり、会社の仕事をしながら、さらに会議室までは無理だと判断しました。皆さんに早く読んでいただきたいテーマが沢山あったことも理由のひとつでした。40回を過ぎて、軌道修正したいと思います。会議室運営まではできませんが、コラムを読んでの意見・感想や、「ほかのサイトで関連した、こんな資料を見たが、どうか」といった質問・情報をメールで寄せていただき、私の責任で元のコラムをフォローする小コラムに再構成してみることにします。何回かに一度、双方向交流特集として組み入れたいと思います。今回のアンケートで、40回「安全保障」についての意見が寄せられていますから、トライアル版として最後の節で展開してみます。

 コラムの読み方について、「最初は、難しそうで避けていたのですが、プリントアウトしてじっくり読んでみるとなかなか!って思いました」(20代、事務職)、「いつも楽しみにして読んでいます。私には、少々難しい内容も出てきますが、読まなければ、損をするような内容ばかりで何とか頑張って理解しているつもりです。まったく、法の下の平等などといっても法律は『知っている人にだけ平等』なのであってまさに、『無知は罪なり』の言葉通りだと思います」(20代、営業職)、「読み進めると、非常に興味深い内容なのですが、時間の都合がつかず、読めていない内容がかなりあります。また、時間が取れないことに関係するのですが、折角参考になるページのリンクを付けて頂いているのですが、そのリンク先を見たことがほとんどありません。申し訳ありません」(20代、専門・技術職)などのコメントがありました。このコラムはリンクが付いていて、原資料に直接ジャンプできるのが特色ではありますが、リンク先からアクセス状況をうかがう限りでは半数以上の方はリンクを利用されていないようです。私の周辺でも印刷されて読まれる方が多いのです。印字したものを、私の妻が第1読者として読む前提で、このコラムは書き始めましたから、ちっともおかしくないのです。加えて、私の意識では縦書きの記事を書くつもりで、新聞のコラムを書くようなニュアンスを盛り込んでいます。ブラウザーのフォントは是非、明朝体にされて、リンクのアンダーラインも消されて、時にパソコンから離れて、紙の世界で読まれるのもよいと思います。

 手厳しいコメントもあります。「私も駆け出しのライターなのですが、いつも注意深く拝見させて頂いております。文章、プロットともに団藤さんのカラーを垣間見ることができ非常に勉強になります。さて、しかし内容に対してですが、確かに資料としては興味深いが、印象に残るものはと聞かれると思い返せるものがありません。つまり面白いのかと聞かれると、『どうでしょうかね』と返答してしまいます。要するにテーマは面白いのですが、『解く』という観点から見ると些か内容の弱さを感じざるを得ません」(20代、自由業)、「つまんない。最近つねに飛ばし読み。どこかで読んだような問題意識とサイト検索の結果では、寺銭をあげる気にはならない」(20代、専門・技術職)と。もともと、このコラム本体は私の主義主張を書く場ではなく、読者の皆さんと共にインターネットを歩いて新しい発見を求める旅です。とてもいろいろなことを勉強されている方々なので発見がないのでしょうか。「例えば1回目と25回、29回の3回分について、私のコラムを読まれる前に類似内容を読まれたことがありますか」とコメントを返しておきましょう。29回については、東大の社会心理学の先生から研究室全員のメーリングリストに全文転載したいと希望があり、当該分野の専門家にも面白がってもらえた例です。

◆安保再論・軍隊について

 40回目の安全保障問題について「安保は米国にとっても重要であり、日本がどうするか選択する時代になってるという結論でした。個人的には、沖縄の基地をなくすなら、フィリピンのそれがなくなって、日本のそれが重要度を増す前にアクションしないといけなかったのかなという気がします。今となっては、もう、どうしようもないですね」(20代、専門・技術職)との意見がありました。フィリピンの基地があってもなくても、日本の基地は米国の世界戦略に必要だというのが、第40回で展開、引用した資料から理解していただけるはずです。ハワイでは遠すぎるから、太平洋の西側に置いておきたい地理的な問題だけならば、米国はグアム島を統治しているのですから、そこに撤収すれば済みます。やはり日本の軍事力をコントロール下に置きたいのが本音でしょう。

 「基本構造が明らかに…」から第40回で引用した部分の後に、沖縄出身の宮里政玄・独協大法学部教授は「沖縄の基地は日本の『潜在主権』の下で存続し、他方本土では平和憲法が施行された。安全保障の面からすれば、沖縄の米軍基地は平和憲法の前提条件であったのである。そしてこの状態は現在も続いている。そのため、本土と沖縄の間に一種の『ねじれ現象』が起こっている。すなわち、平和憲法が沖縄基地の米国への提供を前提としている限り、憲法の範囲内で日本の安全保障政策を考える、いわゆる本土の『リベラル』は、沖縄基地の存続を主張する。沖縄基地の縮小を主張すれば、非現実的だと非難される。かつての日本社会党がその例である。これは沖縄の平和憲法支持者の主張に反するものである」「沖縄が人権をあくまで主張するのであれば、論理的には独立しかない。また、沖縄基地の撤廃を要求する上で沖縄が本土で連帯できるのは理論上、日本共産党、そして皮肉にも日本再軍備論者であろう」と指摘しています。右であれ左であれ、米国支配からのこの国の独立しかないという意味でしょう。

 ここで沖縄の独立が言われていますが、連載第7回の日本人の起源で触れたように沖縄の人たちは、本土に比べて縄文人の血が濃く、長く琉球王国を保った実績もあり、少数民族として独立を要求したとしても、荒唐無稽と笑うことはできないでしょう。本土と沖縄の大学生の意見が集約された「沖縄問題に関するアンケート'97 集計速報」は、本土と沖縄と互いの理解にギャップがあることと、米軍基地がむしろこの国の安全に脅威になる点では一致を見せ、示唆的です。

 繰り返しますが、本当に問題なのは、本土側のリベラル勢力が安全保障と軍事力についてきちんとした政策を示せないことです。非武装中立の社会党が、連合政権とはいえ自らの党首を首班にした政権を作った瞬間に、首相としての国会答弁ができないとの理由で完全に現状肯定に変わってしまうのではたまりません。

 「今日の沖縄問題に端を発する防衛論はとてもよかった。いつも読んでいますが、これまではいろいろな議論の『提示』にとどまっていたような気がします。今日のコラムはそこから一歩踏みだし、何をすべきかという団藤さん自身の考えや怒りが見えて、印象的でした」(30代、自由業)と言われていますので、もう一歩踏み込むと、私は平和憲法の条文解釈もさることながら、軍隊が持つ非人間性が気になります。高知支局員をしているとき、深夜、山奥に自衛隊の大型ヘリが墜落、十数人が死にました。夜明けに現場に着いてみると、焼けこげた遺体を谷川に運んで真っ赤に流れる血を洗い、きれいにしてあげているのは警察や地元の人たちでした。同僚の救出に来たはずの自衛隊は傍観を決め込みます。カーキ色をした集団のそれは不気味なほどで、命令されたことしかしない、してはいけない人たちなのだと、よく分かりました。国連中心の平和主義を唱えても、国連軍の主体は米軍という現実では、軍事力は持たねばならないとの結論に達する可能性は否定しません。しかし、旧日本軍からバックボーンを引き継いだ自衛隊を、人間の顔をした軍隊にするのはいかに難しいか、記憶に鮮烈です。