第703回「ウクライナはロシア国民に戦争の痛み突き付け」

 
 ウクライナへのロシアによる全面侵攻から4年半、両国の壮絶なの戦いは続いているものの、今年夏になって潮目が変わったと言えます。ロシア国民でも戦場に送られなかった一般人は戦争の痛みとは無縁だったのですが、ウクライナが中・長距離の自爆ドローンを大量に製造できるようになり、ロシア重要インフラを次々に破壊し続けて一変しました。ロシア国内奥深くの製油所が大規模に攻撃されて、産油国ロシアがガソリンやディーゼル油の欠乏に泣く事態が起きています。大型物流センターが数十か所も攻撃されて消費者に物が届かないだけでなく、通販の商売が成り立たなくなっています。さらに「民間航空機の運行も安全でない」と公式な警告がゼレンスキー大統領から出されました。ウオールストリートジャーナルの掲載グラフから見てみましょう。  ウオールストリートジャーナル9月6日付の《ウクライナのドローン攻撃がロシア経済に与える打撃---キエフは、製油所、海運ターミナル、電子商取引倉庫を攻撃することで、より大きな敵国を弱体化させようとしている》に掲げられたグラフ2点を引用して1枚に合成しました。グラフ「ウクライナによるロシアの重要インフラ攻撃」と「年初からの燃料価格暴騰」です。

 自爆無人機(ドローン)で3400キロメートルの飛行可能距離を持つ「FP-1」が投入されたのが2025年5月です。搭載爆薬は従来の300キロ級から60キロと軽くして飛行距離を伸ばし、同時にロシア側から発見されにくいステルス性能を持ちます。新型では搭載爆薬200キロで飛行距離700キロの「FP-2」もあります。上のグラフの重要インフラ攻撃実績は2025年8月から明確に立ち上がっており、ドローン生産の大革新が大きく寄与しました。

 ウクライナはロシア深部の製油所までドローンで爆撃し、復旧したらまた叩くと徹底しています。ロシアは同盟国ベラルーシなどからガソリンを緊急輸入したり、低品質の小規模製油所のガソリンを臨時に使用認可していますが、ガソリンの値段は高騰している上に量が足りないので、スタンドには入荷前夜から車が並ぶほどの事態です。

 大型物流センターへの攻撃はワイルドベリーズ社から始まり、他の物流会社にも拡大しました。ウクライナは物流センターが軍需品の輸送にも関与していると主張しています。街中にある通販商品の受け渡し所は商売が上がったりとのルポを見ました。また以下の国営銀行融資を揺さぶる側面もあります。

 《電子商取引分野への攻撃は、ロシアの銀行、特にワイルドベリーズとその販売業者への主要な融資元である国営銀行VTBへの潜在的な波及効果に対する懸念を煽っている。アナリストらは、ワイルドベリーズがVTBに60億ドルから70億ドルの債務を負っていると推定している。これはVTBの融資残高のごく一部に過ぎないが、ワイルドベリーズをめぐる不安がモスクワ証券取引所におけるVTB株の売りを招いている》

 ドローによる民間空港の混乱は非常に顕著になっています。広大なロシアで航空機が止まれば国が回らなくなるとも言えます。

 《ドローンが付近で発見されると、空港は数時間にわたって閉鎖されることが常態化しており、フライトの遅延や欠航を余儀なくされている。航空保安会社オスプレイ・フライト・ソリューションズのデータによると、8月にはロシア全土で993の空港が閉鎖され、半年前の約5倍に増加した》

 ウルクインフォルム通信の9月1日付《ゼレンシキー宇大統領、航空会社に対して、ロシアの空は危険になりつつあると警告》は次のように伝えます。

 《ゼレンシキー氏は、「今日、私たちは、ロシアの領空を使用している全ての航空会社、全ての保険会社、ロシアの主要空港を今も利用している全ての人々に警告したい。ロシアの空は完全に危険になりつつある。ウクライナは民間航空そのもの、すなわちいかなる民間航空機に対しても脅威を与えてはいない。ただ、ロシアの空には無人機が存在していくのであり、そのことは考慮しなければならない。ロシア政権は、然るべき形ではこれを通知していないものの、しかし、ロシアの空は事実上閉鎖される。ロシアが起こした戦争が、同国の空を閉ざすことになるのだ」と発言した》

 《またゼレンシキー氏は、無辜(むこ)の犠牲者を望んでいないから、パートナーたちに対して警告しているのだと強調した》  ウクライナ侵攻初期からロシアはドローンで攻撃し続けたのに、自分が攻撃される対策は首都モスクワ以外では怠っていました。ウクライナの長距離ドローンが大量生産されると広大な国土と相まって為す術がありません。そして、国境から500キロのモスクワが執拗に攻撃されるようになっています。

 JBpressの8月25日付《厳重な防空システムに迎撃されるミサイル、ドローン…それでもウクライナが執拗にモスクワを攻撃する理由》はこう指摘しています。

 《「FP-1」は、日本円で約800万円とみられており、その性能からすれば非常にコストパフォーマンスの高い兵器です。一方、ロシアが迎撃に使っている防空システムには多種多様なものがありますが、数の上でも、対ドローンでの性能の上でも、主力は「パーンツィリ(Pantsir)」です。パーンツィリが使用できるミサイルには複数ありますが、基本的な95Ya6は、日本円にして約500万〜5000万円といわれています。正確なデータがないため、非常に幅のある数値になっていますが、FP-1よりも高価である可能性が濃厚です》

 さらに、ウクライナが発射するドローンの半分以上は弾頭が無い「おとりドローン」で非常に安価に製造されると言われます。着弾するまでは見分けがつかないから高価な迎撃システムで対処せざるを得ません。国力を総動員した消耗戦ですから、この戦術の意義は大きいでしょう。

 【ロシア・ウクライナ戦争の過去記事】
第671回「露軍ヘルソン撤退に見る持続不可能な戦争」(2022/11/16)
第670回「強大国ロシア幻想を打ち砕いた弱者ウクライナ」(2022/09/13)
時評「プーチン狂気の侵攻意図を明かす露国営通信の勝利予定記事」(2022/03/03)